M&Aによる事業承継の基礎知識
2021.8.18
2021.8.18
超高齢社会を迎えた日本において、多くの中小企業が後継者不在による事業承継問題、つまりは廃業危機に瀕しているのが実情です。
近年では、国や自治体もその支援に乗り出しており、さまざまな施策が行われています。
その中でも有効な対策として推奨されているのが、M&Aによる事業承継です。
そこで本記事では、事業承継問題解決の切り札とされるM&Aについて、売り手側の視点に立ち、その理由とメリット・デメリット、などの基礎知識を解説します。
Contents
事業承継とは、会社の経営を現経営者から後継者に引継ぐことです。
後継者の立場によって、事業承継は以下の3種に分類されています。
経営者の親族(子供、配偶者、兄弟姉妹、甥姪、子供の配偶者など)を後継者とする事業承継が親族内承継です。
日本の中小企業では、伝統的に親族内承継が広く行われてきました。
中でも、後継者の代表格は経営者の子供です。
親族内承継では、後継者が必ずしも経営者としての適性を備えているとは限らないという問題があります。
また、親族への会社の経営権=株式の譲渡は、相続、または贈与で行われるのが特徴です。
会社の役員、または従業員を後継者とする事業承継が従業員承継で、社内承継とも呼ばれます。
何らかの理由で親族内承継が実施できない場合に、次善の策として行われてきました。
従業員承継では、後継者としての適性を見極めて相手を選定できます。
そして、会社の事業や内情をよく理解している人物が後継者となる点も利点です。
また、従業員承継での株式の譲渡は、基本的に「売買」で行われます。
「贈与」もあり得ますが、これは極めて稀なケースと言えます。
会社を第三者に売却し、その買い手が新たな経営者(後継者)となるのがM&Aによる事業承継です。
会社の経営権を譲渡・譲受することが売り手・買い手双方の目的ですから、M&Aのスキーム(手法)としては、株式譲渡が用いられます。
株式譲渡では、株式を売却することによって、会社は丸ごと買い手に譲渡されるのです。
M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略です。
端的には、Mergersは合併、Acquisitionsは買収を意味します。
つまり、M&Aとは、複数の企業を1つに統合したり(合併)、一方の企業が他方の企業の経営権や事業を取得したり(買収)することの総称です。
欧米では、日常的な経営戦略手段として用いられています。
日本でも徐々にM&Aは浸透し、特に2017(平成29)~2019(令和元)年は毎年、過去最高記録の実施件数を記録しました(レコフデータ調べ)。
当初のM&Aは、外資系企業や大企業が行うものというイメージでしたが、昨今は中小企業やベンチャー企業、個人事業主でも盛んに行われています。
今やM&Aは、日本においても企業の規模を問わず、経営者の日常的な経営戦略手段となっています。
M&Aによる事業承継が増えてきた背景には、主に以下4点の事象があります。
超高齢社会の日本では、中小企業の経営者が年々、高齢化しています。
帝国データバンクの「全国社長年齢分析」によると、2020(令和2)年の中小企業経営者の平均年齢は60.1歳でした(上場企業経営者の平均年齢は58.7歳)。
同調査によると、1990(平成2)年以降、毎年、経営者の平均年齢は上がり続けています。
そして、経営者の年代別の内訳(比率)は、以下のとおりです。
30歳未満 | 0.2% |
30代 | 3.4% |
40代 | 17.5% |
50代 | 26.9% |
60代 | 27.3% |
70代 | 20.3% |
80歳以上 | 4.4% |
これを見てわかるとおり、日本には相当数、高齢の中小企業経営者がいます。
経営者が高齢である場合、健康面の不安や体力の限界もあり、引退と隣り合わせであるのは拭いようのない真実です。
帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2020年)」によると、日本の中小企業の後継者不在率は65.1%です。
さらに、経営者が60歳以上の中小企業に限ってみると、後継者不在率は39.5%となっており、近年は後継者が見つからないため、事業が黒字でも廃業を選択する企業は多い状況です。
この後継者不在率の高さの理由は主に3つあります。
まず、少子化により、親族内承継で後継者候補の筆頭格である経営者の子供がいないというケースが増えていることです。
次に、価値観の多様化により、親が子供に事業承継を強いらなかったり、子供も親の後継ぎ以外の道を選択したりすることが増えてきました。
最後は、お金の問題です。
親族内承継であれば会社の株式を相続か贈与で引継ぐため、そこには多額の相続税か贈与税が課税されます。
従業員承継の場合には、株式を引継ぐには買取るしかなく、多額の資金が必要です。
このように、重い納税負担、または株式買収資金の用意という点がネックになり、後継者を辞退するケースも多々あります。
少子化は人口の減少という事態も引き起こしています。
人口減少がもたらすのは、国内市場規模の縮小です。
大企業であれば、国内市場縮小の代わりに海外進出するという施策も取れますが、中小企業が簡単にできるものではありません。
縮小する国内市場の中で生き残っていくためには、価格の値下げ競争となります。
そうなると、売上、利益ともに悪化するのは明白です。
このような経営環境の悪化は、最終的に運転資金面で苦境に立たされることになります。
そして、これを脱するために、M&Aで大手企業の傘下に入り経営を安定させようとする動きにつながるのです。
かつてのM&Aには、「会社の売却=身売り」、「会社の買収=乗っ取り」などのようなネガティブなイメージがあり、敬遠する経営者も少なくありませんでした。
実際、米国では敵対的買収が散見されるなどしていましたが、日本のM&Aは有名企業が行う友好的なものがほとんどで、年々、そのイメージは好転してきたのです。
現在では、上述したようなネガティブなイメージはほとんどなくなり、M&Aは経営戦略の日常的な手段として、世間的にも認知され定着しています。
M&Aで事業承継を実施した際に、売り手が得られる主なメリットは以下の4点です。
売り手がM&A(株式譲渡)で会社を売却すると、会社の経営権は買い手に移ります。
言い換えると、買い手が新たな経営者(後継者)となるわけですから、このとき買い手は事業を承継したことになるのです。
過去には、親族や社内に後継者が不在の場合、経営が順調であったとしても廃業せざるを得なかった中小企業も数多くありました。
しかし、M&Aでの会社売却を実現できれば、身近に後継者候補がいなくても事業承継が実現できます。
M&Aによって事業承継を実現し廃業を免れるということは、経営者は代わっても会社は継続されていくということです。
もし廃業していたら従業員は解雇となり、路頭に迷うことになります。
しかし、M&Aによる事業承継が成立することによって、会社は継続し従業員の雇用も守られるのです。
一般にM&Aの買い手は、大手企業もしくは資金的にゆとりがある企業です。
会社を売却した売り手の立場としては、買い手の子会社ということになります。
大手企業の傘下であれば、そのブランド力、信用力、ノウハウ、さまざまな経営資源などを活用できるようになります。
また、運転資金面でも一定の援助が期待できるでしょう。
それらが相まって、売り手企業の経営基盤は安定し、さらに業績の向上も可能となります。
中小企業のM&Aの売り手=経営者個人としては、自社株式を譲渡することで多額の譲渡益を獲得できます。
引退後の生活資金としてでも、新たな事業資金としてでも、自由に使える資金を得られることは大きな魅力です。
また、会社を株式譲渡することによって、会社の持つ負債は買い手に承継されます。
中小企業が金融機関から融資を受ける際は、経営者が個人保証したり担保を差し入れたりすることが常ですが、その債務保証からも解放されるのです。
M&Aによる事業承継では、売り手に以下のようなデメリットが生じる恐れがあります。
M&Aは売買取引です。
したがって、買い手がいなければ成立しません。
一般にM&Aは売り手市場ともいわれますが、まず、希望に合致する買い手と出会うには、タイミングが重要です。
また、買い手のニーズに合致して、初めて交渉がスタートします。
交渉が始まっても、大きな債務があったり会社の将来性が危惧される事象があったりすれば、破談の可能性も否定できません。
希望する条件に合う相手が見つからない状態が続けば、M&A自体が行えないリスクもあり得ます。
M&Aの買い手にとっては、人材の獲得は大きな魅力点です。したがって、一般的には多くないケースですが、買い手にとっての目的が、事業の許認可を得ることだったり、何らかの資産や知的財産の獲得だったりすることもあり得ます。その場合、必ずしも売り手企業に所属している全従業員の存在は必要ではなく、余剰人員は解雇されてしまうかもしれません。M&A成立後は、売り手側経営者に経営権はありませんから、その事態は止められません。この事態を防ぐには、M&Aの成約条件の中に、全従業員を引継ぐ旨を明文化させておくことです。
経営者が代われば、新たな経営者のビジョンの下で日々の経営が行われていきます。
親族内承継や従業員承継であれば、前経営者の経営方針や考え方は継承されていくでしょう。
しかし、それらとは後継者の立場が異なるM&Aでの事業承継では、企業カルチャーが一変するような方針転換があってもおかしくありません。
あまりにも急激な変化は従業員にも混乱をきたし、人材流出のきっかけにもなり得ます。
前経営者が築き上げてきた会社のありようが変わってしまうのは、残念なことです。
したがって、M&Aの交渉段階初期に行われるトップ会談では、買い手経営者の考え方や経営ビジョンについて、よく見極めることが大切になります。
後継者問題を抱える中小企業にとって、M&Aは事業承継を実現する最良の手段です。
ただし、M&Aは買い手がいなければ成立しません。
そして、M&Aの買い手探しや、M&Aの交渉・各種手続き、また、事前準備の相談や助成金の応募サポートまで、全てを安心して進めるには、自社に適した信頼できるアドバイザーが必要になります。
M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」には、豊富なM&Aの知識と経験を有するM&Aアドバイザーだけでなく、公認会計士、税理士、社労士、司法書士なども数多く在籍しています。
つまり、M&Aだけでなく、M&A以前の会社の磨き上げのサポートやM&A後の経営サポートなど、事業承継を目的とするM&Aを実施しようとする中小企業に必要な支援をご提供しております。
M&A Stationでは、随時、無料相談をお受けしています。
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