知っておきたい事業承継税制と補助金
2021.9.16
2021.9.16
経営幹部陣の高齢化や後継者不足に悩む中小企業にとって、事業承継は会社存続のために有効な手段のひとつです。
しかし、実際に事業承継を行うとなると、相続税などの多大な負担が発生することから二の足を踏む経営者も多いかもしれません。
そこで知っておきたいのが「事業承継税制」と「事業承継補助金」です。
今回は、この2つの制度について、具体的にどのような制度なのかを紹介します。
「相続」と「事業承継」は同じような言葉として使われがちですが、異なる点がいくつかあります。
相続とは、財産を所有している人が亡くなったときに、その遺産を身内など特定の人が譲り受ける行為を意味します。
財産を譲り受けられる人の範囲は、民法で定められている法定相続人と、遺言書で指定された受遺者です。
なお、相続の場合、対象になるのは被相続人の預金や不動産といった財産です。
これに対して事業承継の対象になるのは会社であり、株式や経営権、知的資産、ノウハウ、顧客情報など、会社を今後も経営するために必要なものを後継者に承継させることを指します。
「継承」と「承継」も混同されることが多い用語です。
「継承」は、前任者・先代の義務、財産、役職、権利など客観的に見たその人の立場を受け継ぐこととされます。
継承は広義の意味で用いられますが、もともと他の人のモノ・コトだったものを受け継ぎ、自分のものとすることを言います。
一方、「承継」は、前任者・先代の事業や理念、精神など目に見えない抽象的なモノ・コトを受け継ぐことだとされています。
承継は法律的な要素もあり、法の概要、契約書等では「承継」を使うのが一般的です。
事業承継とは「会社存続のために経営者が後継者に対し、企業経営を引き継ぐこと」をいいます。
少子高齢化が進む社会においては、企業の後継者不足と経営者の高齢化が問題となっており、企業存続のために事業承継が求められています。
2019年に、東京商工リサーチが行った調査によれば、「人手不足」を理由に倒産した企業の数は426件に上り、これは2013年の調査開始以来過去最多を記録しました。
しかも、人手不足で倒産した企業のうち、経営者の引退や死亡による後継者不足を理由に挙げた企業は6割を超えているのが実情です。
また、東京商工リサーチの「2018年全国社長の年齢調査」によれば、「社長(個人事業主、理事長を含む)」の平均年齢は61.73歳と過去最高を記録しており、特に70代は6.5%増であることから会社経営者の高齢化も進んでいることが分かるでしょう。
中小企業では代表者が退くことや、後継者がすぐに見つからないことで経営難に直面し、最悪の場合倒産のリスクを負う結果となってしまうのです。
経営者に不測の事態があったにもかかわらず、適切な後継者がいない場合、企業の経営難を食い止め業績を回復させるためには、新たな経営者を据えることが求められます。
以上のことから、後継者不足や代表者の高齢化に悩む中小企業にとって、事業承継は重要な手段のひとつといえるでしょう。
事業承継税制とは、「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」の通称です。
この制度が適用されると事業承継により、元の経営者から後継者に自社株式が移った場合に、所定の手続きをすれば、贈与税や相続税の納税が猶予されることとなります。
事業承継の際に生ずる多額の相続税を節税しようとするあまり、株価抑制のために収益を抑えるといったことが行われれば、かえって会社の健全な経営を阻害する結果となります。
そうならないよう、負担を会社にかけず、スムーズに事業承継が行えるように配慮するために、事業承継税制が設けられたのです。
当初は、本制度適用後に一定の要件を満たさなくなった場合は、猶予分を全額納税しなければならないこととなっていたため、中小企業にとっては使い勝手があまり良くなく、実際に制度を利用する企業は多くありませんでした。
そこで、平成30年度の税制改正において「特例制度」が設けられ、いくつかの点で改善がなされたのです。
まず、事業承継後に一定レベルの雇用を維持できなかったとしても、手続きを経ることで納税猶予が継続できるようになりました。
次に、後継者が自主廃業の道を選択した場合、「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」であれば、譲渡や合併の対価の額、または会社解散時の相続税評価額に基づいて納付金額を再計算し、当初の納税猶予額との差額は免除されることとなったのです。
さらに、従来の事業承継税制では納税猶予の対象額は全体の5割ほどしか認められなかったところ、特例制度では、後継者が贈与や相続、遺贈により非上場株式を取得すれば、その「全株式」に係る贈与税または相続税の「全額」が納税猶予の対象となりました。
以上のとおり、事業承継税制は事業承継を行う中小企業にとって、できるだけ負担をかけることのないような設計がなされるに至ったのです。
事業承継補助金とは、「事業承継をすることで経営改革や新事業を始める中小企業などを対象に行われる補助制度」です。
中小企業庁の審査を経て交付される補助金であり、年度ごとに公募が行われます。
事業承継補助金の申請方法としては、まず、「認定経営革新等支援機関」に相談することが必要です。
この支援機関は銀行、税理士法人、会計事務所などが認定を受けています。
支援機関に相談後は、事業計画書、認定経営革新等支援機関の確認書などの書類を準備して「事業承継補助金事務局」へ提出しましょう。
応募書類を基に交付可能かどうかの審査が行われ、採択されると通知が届きます。
通知が来たら交付を受けるために必要な手続きをしましょう。
あとは、実際に事業承継の計画書に基づいて事業を展開していくこととなります。
事業が完了した時点から30日以内に実績報告書を提出し、補助金を請求しましょう。
請求から交付までにかかる期間は約2~3カ月です。
無事に補助金を受け取った後も、5年間は当該事業についての実施内容報告義務があるので注意しましょう。
事業承継税制も事業承継補助金も、事業承継を行う企業が承継後もスムーズに経営を継続できるよう支援するために作られた制度です。
制度を利用できる対象者の要件や交付額の上限は年度により異なるため、申請に当たっては中小企業庁のウェブサイト等をこまめに確認するようにしましょう。
事業承継を考えているのであれば、承継後も順調に会社経営ができるよう、補助制度について基本を押さえておきましょう。
この記事の監修M&Aアドバイザー 西井 康輔
税理士法人Bricks&UKにて、会社設立や創業融資などスタートアップの支援を数多く担当。
M&A Stationでは総合的なM&Aのサポートに従事。
業種を問わず幅広くM&A戦略の策定、事業承継についてアドバイスを行っている。
昨今、中小企業にとって経営者の高齢化と後継者不在が深刻な問題となっています。
そんな中、中小企業庁が2017年7月に打ち出した、事業承継支援を集中的に実施する「事業承継5ヶ年計画」を皮切りに、中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする「事業承継補助金」の運用、経営・幹部人材の派遣、M&Aマッチング支援など、円滑な事業承継に向けたサポートが実施され、国を挙げて後継者問題の解消を後押しする機運が高まってきました。
引退を検討している経営者の方はもちろん、まだ引退を考えていない方も事前に事業承継の知識を蓄えておけば、より円滑に事業承継を進めることができるでしょう。
当サイトではダウンロード資料として『【M&Aによる事業承継】M&Aの活用で後継者問題を解消』を無料配布中です。
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