【M&A最新動向】宿泊業界のM&Aについて
2023.4.14
2023.4.14
新型コロナウィルスの感染拡大において、もっとも影響を受けた業界の1つに「宿泊業界」が挙げられます。
一時期は大きく経済活動が落ち込んだ宿泊業界ですが、最近になり海外渡航の制限が緩和されてきたこともあり、コロナ禍の収束の兆候から2021年以降はM&Aが活発になっている傾向となっています。
今回は、回復が期待される宿泊業界のM&A市場動向について解説していきます。メリット・デメリットやM&Aを行う際の注意点も、あわせてみていきましょう。
Contents
宿泊業界の市場は、現在どのような状況なのでしょうか。
まずは宿泊業界の定義と市場環境を解説します。
日本標準産業分類では、宿泊業を「一般公衆,特定の会員等に対して宿泊を提供する事業所」と定義しています。
なお、宿泊業界は旅館業法という法律によって、ホテル営業・旅館営業・簡易宿所営業・下宿営業に分けられます。
ご承知の通り、2020年の新型コロナウィルスの感染拡大により、宿泊業界は大きく打撃を受けました。規模の大小に関わりなく多くの企業・施設が休業を余儀なくされ、廃業に追い込まれた事業者も少なくありませんでした。
とりわけ大きな要因の1つが「外国人観光客の減少」です。
実際に日本政府観光局の「日本の観光統計データ」でも、2019年には3,000万人を超えていた訪日外国人観光客が、2020年におよそ412万人、2021年にはおよそ25万人と発表されています。外国人観光客の減少により、急速な市場の冷え込みが見られていました。
しかし現在は渡航制限も緩和され、再び観光需要が高まっていることから、回復が期待されています。
宿泊業界の特徴としては、離職率が高いことがあり、低賃金や長時間労働を理由に離職率が高くなっています。
厚生労働省の「令和3年雇用動向調査結果」でも、宿泊業・飲食サービス業の離職者数は、他業界と比較してもっとも多いことが発表されました。
業界全体の慢性的な人手不足により、従業員の高齢化や人材獲得が深刻な課題となっています。
前述したように、2020年から宿泊業界の市場は大きく冷え込みました。
2019年までインバウンド観光客が増加していたこともあり、比較すると急激に落ち込んだことになります。
現在は回復が期待されていることから、コロナ禍の収束に伴い今後市場の競争は激化することが予想されます。
円安効果もあり、コロナが収束すれば訪日外国人観光客も再び増加するでしょう。実際にコロナ後を見越したホテルの開業が増加している様子が見て取れます。
ここまで、宿泊業界の市場環境についてみてきました。次に、近年の宿泊業界のM&Aの動向をみていきましょう。
宿泊業界はコロナ後需要の高まりが予想される業界です。
前述してきたようにコロナ後は訪日外国人観光客も増加すると考えられ、業界への期待も高まっています。この期待感から今後は宿泊業界のM&Aが加速するとみられています。
国の後押しも、宿泊業界のM&Aを加速させています。
最近でも、国土交通省による「全国旅行支援」が実施されました。
全国旅行支援とは、旅行代金の割引と地域クーポンを付与する施策です。
今後もこういった施策の実施が予想されます。後押しを受けて市場が活性化すれば、M&Aがさらに活発化すると考えられます。
宿泊業界の人手不足は深刻です。そのため、M&Aで人材を獲得しようとする企業も少なくありません。
また、宿泊業界では経営者の高齢化が進んでいますが、高齢になっても事業を引き継ぐ人材が見当たらず、事業承継できない経営者も多くいます。この問題を解決するために、M&Aによって外部から後継者を獲得する動きが目立ちます。
上記3点を理由に、宿泊業界ではM&Aが加速しています。
宿泊業界でのM&Aには、どのようなメリットがあるのでしょうか。宿泊業を買収・売却するメリットについて説明します。
まず、買い手側のメリットをみてみましょう。以下のメリットがあげられます。
宿泊業では集客において土地(立地)や施設が重要です。
人気観光地の土地や豪華な施設を最初から準備するとなると、手間もコストも大きくかかります。
その際、M&Aですでに運営している施設を買収すれば、土地も施設もそのまま引き継ぐことが可能です。
また、人材や顧客がある状態で事業を始められるため、新規事業や事業拡大のコストも節約できますし、収益化するまでの時間を短縮することができます。
サービス業である宿泊業界では、土地や施設と同じように重視されているのが従業員のスキルやノウハウです。
従業員にはリピートに繋がるような接客力が求められますが、高い接客力を持つ従業員を育てるには一朝一夕にはいかず、多大な時間やコストが必要とされます。
さらに外国人観光客に向けて語学力の高い人材も必要ですが、獲得は簡単ではありません。
M&Aを行えば、人材を含め経営リソースをそのまま獲得できます。コストや手間をかけることなく質の高いサービスが提供できます。
同じ宿泊業同士でM&Aを行えば相乗効果(シナジー効果)が期待できます。施設が増えれば客室数も増加し、保有する顧客情報も増えることから収益アップも見込めるでしょう。
また、宿泊業界ではブランドも重視される傾向にありますが、M&Aではブランド力を相互に活かすことが可能になります。
それぞれが持つノウハウやスキルを共有することで、サービスの質も向上します。
売り手側のメリットもみてみましょう。売り手側には以下のメリットがあります。
宿泊業界では後継者不足が課題なわけですが、後継者不在の状況が続くと、いずれは廃業しなくてはならない事態も出てきます。
しかしM&Aを行えば、経営者を外部から獲得でき、事業を存続することができます。
従業員も買い手側企業で働けるため雇用が守られ、場合によっては、より良い条件で従業員が働けるケースもあるでしょう。
事業と雇用を守れるのは、売り手側の大きなメリットです。
資金に余裕のある企業に譲渡すれば、経営基盤が安定します。買い手側がもつノウハウも取り入れられ、安定した経営のなかで企業体質の改善が行えます。採算性のある事業に注力できるようにもなり、収益増加が期待できるでしょう。買い手側のブランド力を活かして、施設の知名度を上げることも可能です。
金融機関などから融資を受ける際に、経営者自身が連帯保証人になることを個人保証といいます。
個人保証では、会社が融資を返済できなくなった場合は、経営者個人が資産を売ってでも返済しなければなりません。
M&Aで売却すれば、個人保証や担保も買い手側に引き継いでもらえます。
宿泊業界のM&Aには、メリットだけではなくデメリットもあります。デメリットも合わせて確認しておきましょう。
買い手側のデメリットには、以下の3点があります。
簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務を指します。未計上の買掛金や未払い残業代が簿外債務に該当します。
発覚した簿外債務が高額になるケースは、決して珍しくありません。M&Aでは買収した事業者が債務も引き継ぐため、簿外債務も買い手側が負うことになります。
事前に把握することが出来ず、知らずに簿外債務を引き継いでしまえば、M&Aが失敗に終わってしまう事態も考えられます。
M&Aが実施された場合、労働環境の激変から従業員が反感や不信感を抱きやすいというリスクがあります。
反感や不信感から人材が流出してしまうことは、M&A後には珍しくありません。
場合によっては優秀な社員が流出し、サービスの質が下がったり効率的な業務が行えなくなったりする可能性があります。
人手不足のなかせっかく確保した人材が流出してしまっては、大きなダメージを受けます。そのような事態に陥らないよう、M&Aに際しては従業員への配慮が欠かせないでしょう。
人事労務面の統合が上手くいかないと、待遇や職場環境に従業員が納得せず効率的な業務が行えない可能性があります。
どの業界でもそうですが、M&Aでは人事労務面の統合にとくに注意しなければなりません。
現状では、国の人事労務面での専門的な支援は不足している状況です。業界ごとの知識やノウハウが豊富で、円滑な経営統合について知見のある専門家に相談すると安心でしょう。
売り手側のデメリットには、以下の2点があります。
M&Aでは、多くの企業のなかから自社に合う買い手を見つけなければなりません。
仮に買い希望の企業が見つかったとしても、首尾よくお互いの条件が折り合うとは限りません。探すのにも限界があり、途中でM&Aを断念してしまうケースも見られます。
見つかるという保証も無いまま、あてのない買い手探しを続けることは途方もない労力と時間の消費となり大きなストレスとなるでしょう。
また、より良い買い手を探すために自社の企業価値を高めておくなど、別の面でも手間をかける必要があります。
M&Aを行えば、従業員の職場環境は大きく変わる可能性があります。そのため、M&Aのあとの待遇や環境に従業員がネガティブな印象を抱くのは珍しい話ではありません。
最悪のケースでは、不安に思った従業員が離職してしまう可能性も出て来るでしょう。
それ以前にも、M&Aが成立する前に計画が従業員に漏れてしまえば、今後を心配して離職するケースもあり得ます。
ここで、宿泊業界でM&Aを行う場合の注意点を紹介します。M&Aを成功させるために、参考にしてください。
意外と見落としがちですが、M&Aでは成立前に、人事労務管理の体制を整えておくことが重要です。
M&Aのあと業務に支障がおきないよう、未払い残業代や有給の未消化などの問題がないか確認し、整理しておきましょう。
人事労務管理の体制を整えておくと、業務がスムーズになりさまざまな相乗効果が期待できます。
また、労働関連の法令もあわせて確認しておきましょう。労働関連の法令は毎年改正されます。法令違反にならないよう、こまめに確認してくことをおすすめします。
小規模な組織の場合、社外・社内問わず属人的な体制になっているのはよくある話であり、現オーナーが抜けたことにより取引先や従業員との関係が急速に薄れることが、しばしば見られます。
そのため、現オーナーが引退しても機能する組織づくりが必要です。
経営理念や業務プロセス、マニュアルなどあらかじめ整えておきましょう。M&Aの前に、経営者同士で方向性をしっかり取り決めておくことも組織づくりに有効です。
組織として機能し、効率的な経営が行えるように準備をしっかりしておいてください。
宿泊業にはさまざまな許認可が必要です。中には、M&Aの手法によっては許認可を引き継げない場合もあるため注意しなければなりません。
許認可の再申請が遅れると無許可営業になってしまいます。無許可営業は営業停止や罰金といった厳しい罰則が課されることもあるため、休業しなければならないケースも出てきます。
M&Aを行う前に、許認可の再申請が必要かしっかりと確認しておきましょう。
計画的に事業を展開できるよう、申請にどれくらい時間がかかるか確認しておくと安心です。
M&Aの手続きは複雑で、法務や財務など専門的な知識が必要です。M&A Stationは、豊富な経験と専門的な知見からM&Aをサポートします。
また、資金調達サポートや事業計画書の無料診断なども、当サイトを運営する認定支援機関の「税理士法人Bricks&UK」がお手伝いできます。
M&Aを検討されている方は、ぜひ一度お問い合わせください。
この記事の監修M&Aシニアアドバイザー 齊藤 宏介
税理士法人Bricks&UKにて、税務・会計の豊富な経験から事業者の良きパートナーとして活躍。
M&A Stationではアドバイザーの中心的存在として、様々な業種の会社へのM&Aアドバイザリー業務を取り仕切る。
M&A Stationでは、豊富な案件からスムーズなマッチングを実現。
効率的な資金調達や、財務・税務・ビジネス・法務・人事、あらゆるDD(デューデリジェンス)を自社内で一括で行うなど、 買収や合併後、制度面や業務面でのスピーディな統合を実現し、シナジー効果の獲得に直結するM&Aを支援いたします。
M&Aにまつわる基礎的な疑問やご相談から、専門的なアドバイスが欲しい方など。
随時、ご相談を承っております。お気軽にご利用くださいませ。
M&Aを成功させるための要点のひとつに「デューデリジェンス」が挙げられます。
買収対象企業の分析・評価のために実行されるもので、ここでリスクを見落としてしまうと後々取り返しがつかない危険性があります。
ただ、調査項目は多岐に渡り高度な専門知識が必要とされ、いざ必要な場面でどこに依頼すればいいか分からない方も少なくないでしょう。
多くのM&A仲介会社の業務範囲は、文字どおり「仲介」まで。デューデリジェンスに関しては、改めて依頼先を探さなければいけません。
M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」では、グループとして税理士、社会保険労務士、司法書士、M&Aアドバイザーが在籍しており、本来であれば個別に依頼が必要なデューデリジェンスもワンストップ対応が可能です。
デューデリジェンスもM&A Stationにおまかせください!
いますぐ無料相談を申し込む!カテゴリ
サイト内を検索