【M&A最新動向】コロナ禍を機に件数増加中?製造業界のM&A動向
2022.3.10
2022.3.10
戦後、かつては「安かろう悪かろう」の代名詞であった「メイドインジャパン」。その後、技術の向上により大きく躍進。
1980年代には「低コストで高品質」の代名詞として広く世界で評価されるようになり、日本経済の成長をけん引してきました。
現在でも国内総生産では第2位であり約2割を占め、まさに我が国の基幹産業と呼べる存在です。
本記事は、そんな日本の基幹産業の1つである製造業界のM&A動向についてまとめました。
製造業界の概要、製造業界を取り巻く現状や今後の課題、製造業界のM&Aの動向、メリット・デメリットなどを、実際のM&A事例の紹介とともに解説しています。
Contents
総務省の「日本標準産業分類」では「新たな製品の製造加工を行い、卸売する事業所」を製造業に該当すると定義しています。
ただし、ひと言で製造業と言っても業種は多岐にわたり、日本標準産業分類では中分類だけでも24種類、小分類では数百種類もの製造業があります。
内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」によれば、2019(令和元)年の日本のGDPのうち、製造業の占める割合は20.3%です。
これは、サービス業(30.8%)に次いで2番目に多い比率であり、日本において製造業は重要な基幹産業であることがわかります。
なお「国民経済計算(経済活動別国内総生産)」を見ると、2019年の製造業のGDPは約114兆円でした。
その業種別の内訳は以下のようになっています。
はん用・生産用・業務用機械製造 | 15% |
輸送用機械製造 | 13% |
化学製品製造 | 11% |
一次金属製造 | 8% |
電気機械製造 | 6% |
金属製品製造 | 5% |
石油・石炭製品製造 | 5% |
電子部品・デバイス製造 | 5% |
パルプ・紙・紙加工品製造 | 3% |
窯業・土石製品製造 | 3% |
情報・通信機器製造 | 3% |
繊維製品製造 | 1% |
その他の製造業 | 22% |
製造業界の現在の状況および今後の課題として、以下の4項目が注目されています。
経済産業省の資料「製造業を巡る動向と今後の課題(2021年9月)」によれば、2020(令和2)年に起こった新型コロナウィルス感染拡大問題により、2020年前半の製造業の売上高は急速に悪化しました。
同年後半には回復基調に転じていますが、それでも2021(令和3)年9月時点では、まだ感染拡大前の水準には戻っていません。
また、製造業の場合、業績の復調や向上を目指すなら、一定の設備投資が必要です。
しかし、新型コロナウィルス感染拡大問題の終息時期が見通せず、先行きが不透明であることから多くの企業で設備投資を見送る傾向が見られます。
今後、製造業界に限らず、ほとんどの産業においてDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは欠かせません。
DXとは、デジタル技術を事業の工程の中に取り入れること、つまり端的にはIT化のことです。
製造業界においてDX化の取り組みを実施するには、まず、各社がバリューチェーン上で担っている役割を的確に把握する必要があります。
その上で、無線通信技術の活用なども含め、効率的で戦略的なDXへの投資を進めていくことが肝要です。
また、2022(令和4)年2月にトヨタ自動車の取引先である部品製造会社がサイバー攻撃被害を受けました。
これからは会社の規模に関わらず、サイバーセキュリティ対策も万全に行っていくことが急務とされています。
少子化による人口減少が続く日本では、ほとんどの産業が慢性的な人手不足状態であり、製造業界も例外ではありません。
経済産業省の「製造業を巡る動向と今後の課題」によると、2020年1月から2021年7月までの間、製造業界の就業者数が前年同月を上回った月は2回しかありませんでした。
2021年7月の状況を詳しく見てみると、製造業界全体の人手不足数は74,013人で、有効求人倍率は1.58倍となっています。
全業種の平均有効求人倍率は1.15倍ですから、いかに製造業界で労働人口が足りていないかわかるでしょう。
製造業界の各社は、労働者を確保するために労働条件=給料を上げざるを得ず、人件費が高騰する事態となっています。
インフレ率が低い現在の日本経済では値上げがしづらいため、人件費の増加分を製品価格に転嫁できない製造業の企業が多く、利益率の低下という問題も発生しているのです。
他の業種と同様に製造業界の中小企業では、後継者不在による事業承継問題が深刻です。
帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2021年)」によれば、製造業界の中小企業の後継者不在率は53.7%でした。
全業種の平均が61.5%で、製造業界が最も低いという結果ではありますが、それでも決して楽観できる数値ではありません。
後継者不在のまま経営者が引退時期を迎えた場合、事業承継が行えないため会社は廃業するしかないからです。
さらに同社の「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2021年)」では、2021年に製造業界の会社は、全国で2,882社が休廃業・解散しています(個人事業主含む)。
会社が休廃業・解散した場合、最も影響を受けるのは解雇となる従業員です。
この問題の解決方法としては、M&Aによる第三者への事業承継がありますが、それには経営者がその意識を持つことが必要です。
高齢の経営者の場合、M&Aへの抵抗感もあり、国や自治体がどのように啓蒙していくかが鍵となるでしょう。
製造業界においては、以下のようなM&Aの実施が顕著です。
従業員の高齢化を解決するためのM&Aとは、新たな人材を獲得するために行うM&Aのことです。前述したように製造業界の場合、求人しただけでは人材をそろえきれないという現実があります。
これをM&Aによって解決しているのです。
経営者の高齢化を解決するためのM&Aとは、前述したM&Aによる第三者への事業承継を意味します。
多くの後継者不在企業がある製造業界では、今後、この事業承継を目的とするM&Aが増加していくのは明らかです。
製造業界のM&Aにおいて、一般的な中小企業の売却相場を簡易的に計算する方法として以下の算式があります。
営業利益を3〜5年分としているのは、各社によって違いのある無形資産の価値(=のれん代)を加味するためです。
一般に無形資産とは、対象会社の技術力・研究開発力・ブランド力・製品の希少性・市場でのシェア・人材の能力・ノウハウ・特許・商標権・特殊な許認可・顧客や取引先リストなどが該当します。
これらの内容は各社によって異なるため、3〜5年という幅を持たせているのです。
ただし、無形資産の価値を正確に売却相場に織り込むには、専門的な計算方法を用いた企業価値評価(バリュエーション)を実施する必要があります。
企業価値評価は、公認会計士やM&A仲介会社などの専門家に依頼するしかありません。
M&A Stationでは簡易無料診断を承っております。
専門家による簡易査定をご希望の際には、お気軽にM&A Stationまでお問い合わせください。
ここでは、製造業界でM&Aを行った場合のメリットについて見てみましょう。
製造業界でのM&Aで、売り手には主に以下の4つのメリットがあります。
現状、親族や社内に後継者がいない製造業界の中小企業であっても、M&Aで会社を売却すれば、その買い手が新たな経営者(後継者)となって事業承継が実現します。
当然、会社は存続できますので、従業員が路頭に迷うこともありません。
M&Aで会社を売却した場合、大きな債務などを抱えていない限り相応の売却益を得られます。
老後の生活資金でも新事業の立ち上げでも、自由使途の資金を獲得できるのです。
これは廃業してしまっては絶対に得られません。
また、廃業するための手間や費用の発生も考慮すると、得られる利益は単純な売却金額だけに留まらないと言えます。
経営戦略の1つに事業の多角化があります。
しかし、会社の規模に見合わない多角化戦略の場合、事業全てに十分な経営資源を振り分けるのは難しいものです。
そのままではコア事業にも悪影響が出かねません。
このような場合には、経営資源をコア事業に集中させるため、ノンコア事業を売却する戦略が有効です。
複数の事業を行っている場合、業績が芳しくない事業が出てしまうのはよくあるケースです。
自社で不採算事業の立て直しが厳しい場合には、該当事業を他社に売却することで経営にダメージが出るのを防げます。
製造業界でのM&Aで、買い手には主に以下の4つのメリットがあります。
製造業界の会社にとって、人材不足は慢性的な課題です。
M&Aで他社を買収することによって、そこで働く従業員を一挙に獲得できます。
それと合わせて、売り手企業の持つ技術やノウハウ、設備を獲得できるので、事業規模の急拡張が可能です。
製造業界のM&Aでは、買い手は売り手企業が抱えている顧客も共有可能になります。
顧客リストの内容が自社と全くかぶっていなければ、単純計算で顧客規模も一気に拡大可能です。
製造業界の企業にとってDX化への対応が必須であるのは既述のとおりです。
その対応手段として、M&Aで既にDX化が進んでいる企業と合併するなどで、自社では未着手だったIT化・システム化が容易に実現できるようになります。
製造業界では、1つの製品を製造するにあたり、各部品の製造を各社で分業しているのが一般的です。
そのような分業先の会社を買収すれば、製造工程全ての内製化が可能になります。
生産性が上がり、コストカットもできるので業績向上が期待できるでしょう。
前述したメリットに対して、製造業界でM&Aを行った場合に発生し得るデメリットについて確認します。
製造業界のM&Aにおいて、売り手には以下のようなデメリットが発生する可能性があります。
製造業の場合、取引先が特定の企業に限定されていたり、経営者の人間関係で成立しているケースも少なくありません。
M&Aによって経営者が交代したことにより、長い付き合いのあった取引先が離れてしまうおそれがあります。
M&Aでは、売り手に希望条件があるように、買い手にも希望条件があります。
多くの買い手から望まれるような経営状態でなかった場合、思惑どおりに売却先は見つからないかもしれません。
M&Aという会社の経営判断を受け入れられない従業員や、売却先の社風になじめないという従業員もいるようです。
最悪の場合、それらの従業員が離職してしまうかもしれません。
そうなると、その人材が持っていた技術やノウハウは失われる結果となってしまいます。
専門的な知識や経験が必要なM&Aを、自社だけで進めるのは無理があります。
したがって、M&A仲介会社などの専門家にサポートを依頼するのが現実的ですが、その場合、サポート依頼料が発生します。
また、M&Aで得た売却益に対して課税も受けますから納税も必要なので、売却益が満額、手元に残るわけではありません。
製造業界のM&Aにおいて、買い手には以下のようなデメリットが発生が懸念されます。
売り手側のデメリットでも挙げましたが、製造業界の中小企業の場合、取引先との関係は経営者同士の人間関係で成り立っている傾向があります。
そのような取引先においては、M&Aで経営者が代わってしまうと、それを理由に取引関係を解消するケースがあり慎重な対応が必要とされます。
製造業界は技術革新のサイクルが早いため、M&Aで獲得した買収先の設備や人材が持つ技術がすぐに陳腐化してしまう可能性があります。
その場合、規模が拡大した分、設備の刷新や人材育成について、今まで以上のコストや手間がかかるのは避けられません。
製造業界でのM&Aの売り手のデメリットでも述べたとおり、全ての従業員がM&Aを歓迎するとは限りません。
買い手側の従業員の場合でも、M&Aに反発や不安を持ち退職するケースもあります。
したがって、M&A実施の際には従業員へのケアの必要性も十分に認識して臨みましょう。
ここでは、実際に製造業界の企業が行ったM&A事例を紹介します。
2021(令和3)年12月、東和薬品は、三生医薬の全株式を取得し完全子会社化すると発表しました。
取得予定日は2022(令和4)年3月で、取得価額は476億9,400万円です。
東和薬品は、医療用医薬品の製造・販売を行っています。
三生医薬は、健康食品、医薬品、一般食品、雑貨などの企画・開発・受託製造などを行っている企業です。
東和薬品としては、三生医薬が持つ高い技術力、健康食品の製造ノウハウ、多方面におよぶ顧客基盤などに着目しました。
今後、三生医薬が傘下に加わったことによって、多角的な健康関連事業展開が可能となり、シナジー効果の創出と企業価値向上が図れると考えています。
2021年11月、巴川製紙所は、三善製紙に対し、洋紙事業の一部である超軽量印刷用紙の営業権などを譲渡しました。
超軽量印刷用紙とは、トモエリバー薄葉印刷用紙と手帳用紙のことで、それらの営業権、商標権、棚卸資産の一部を約3億円で譲渡しています。
巴川製紙所は、紙、不織布、パルプ、プラスチックス、電子写真用現像剤、複写・印刷・記録用材料、電子機器用部分品、電磁機器用部分品、通信機器用部分品、電池用部分品、磁気記録カード・テープ、集積回路内蔵情報記録カードなどの製造・加工・輸出入・販売を行っている企業です。
三善製紙は、中越パルプ工業の完全子会社で、印刷・情報用紙、産業包材用紙、特殊紙の製造・販売を行っています。中越パルプ工業は、パルプ類・紙類とその副産物・化学薬品の製造・加工・売買、林業、製材業、木材の加工・売買、緑化事業、不動産の売買・賃貸・管理・仲介、スポーツ施設の経営、鉱業、電気供給業、運送業、倉庫業などを行っている企業です。
中越パルプ工業としては現在、グループ事業の再構築を図っており、三善製紙の営業基盤強化のために巴川製紙所からの事業譲受を決めています。
2021年10月、コンドーテックは、栗山アルミの株式75.7%を取得して子会社化しました。
取得価額は公表されていません。
コンドーテックは、金物小売業向け産業資材・鉄骨加工業者向け鉄構資材の製造・仕入・販売、電気工事業者や家電小売店向け電設資材の仕入・販売などを行っている企業です。
栗山アルミは、非鉄金属の押出・アルミ押出型材などの製造・開発、型材・板材・ステンレスなどの加工、 アルミニウムの表面処理加工などを行っています。
コンドーテックとしては、今後、成長が見込まれる アルミニウム商材について現在、自社グループ内では事業化されておらず、同分野に進出するために栗山アルミを子会社化しました。
最後に、製造業界でM&Aを実施する際に注意すべき点をお伝えします。
製造業界でのM&Aでは売り手は以下の点に留意しましょう。
できるだけ希望条件どおりの金額で売却を実現するには、買い手から高い評価を得なければなりません。
そのため、まずは「同業他社にはない自社ならではの強み」や、「買い手企業との間でどのようなシナジー効果が想定できるか」などを明確にして、売却する相手企業を選定するようにしましょう。
M&A交渉を始めるにあたっては、秘密保持契約書を締結します。
したがって、外部に情報をもらさないのは当然ですが、気をつけたいのは社内での情報管理です。
M&Aの交渉途中の段階で従業員に情報がもれると、そこが発火点となって顧客や取引先にまで話が出回ってしまう場合があります。
そうなると退職者が出たり、取引が打ち切られたりするかもしれません。
売り手側のそのような変化を買い手が望むわけもなく、最悪のケースではM&Aが破談となる可能性もあるでしょう。
同様に、製造業界でのM&Aでは買い手は以下の点に留意すべきです。
デューデリジェンスとは、最終交渉前に買い手が実施する売り手企業の精密監査です。
財務・税務・法務・労務・IT・事業などの分野ごとに、士業などの専門家を起用して実施します。
デューデリジェンスには3つの目的があり、第一には、簿外債務や訴訟リスクなどM&A後に経営にダメージを与える要素が売り手に隠されていないかのチェックです。
第二に、最終交渉で提示する買収価額を決定するための経営情報の収集・確認をします。
第三は、後述するPMI計画策定のための情報収集です。
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A後の経営統合プロセスのことです。
買い手は売り手企業との間で、業務システム、管理システム、ITシステム、作業工程、組織再編と人員配置、人事制度、企業風土などについて、統合を行う必要があります。
これを怠ってうまく経営統合ができなければ、M&Aは失敗となるでしょう。
したがって、PMI用の入念な計画を策定する必要があるため、事前のデューデリジェンスでの情報収集が重要なのです。
製造業界で活発化するM&Aですが、売り手・買い手では目的もメリット・デメリットも注意点も異なります。
その交渉や手続きを円滑に進めてM&Aを成約させるには、専門家のサポートを受けるのが得策と言えるしょう。
M&A Stationでは、M&Aに関する豊富な知識と経験により、さまざまなノウハウを有するアドバイザーが交渉や各種手続きをサポートします。
国の認定を受けた支援機関(認定経営革新等支援機関)である「税理士法人Bricks&UK」では、交渉や手続き面のサポートだけでなく、資金調達サポートや事業計画書の無料診断などにもお力添えできます。
製造業界でM&Aをご検討されている場合には、いつでもお気軽にお問い合わせください。
M&A Stationでは、随時、無料相談をお受けしています。
この記事の監修M&Aシニアアドバイザー 齊藤 宏介
税理士法人Bricks&UKにて、税務・会計の豊富な経験から事業者の良きパートナーとして活躍。
M&A Stationではアドバイザーの中心的存在として、様々な業種の会社へのM&Aアドバイザリー業務を取り仕切る。
デューデリジェンスなどへの対応を含め、総合的にM&Aをサポートする体制が備わっているのがM&A Stationです。
進行中のM&A案件に関するセカンドオピニオンも承っております。
まずはお気軽にご相談くださいませ。
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