【M&A最新動向】調剤薬局業界のM&Aについて
2023.1.31
2023.1.31
近年、薬価改定や国の医療費削減の方針などを背景に、調剤薬局業界のM&Aが活発になっています。
本記事では、調剤薬局業界のM&Aの最新動向を追いながら、メリットやデメリットをくわしく説明していきます。
また、実際にM&Aを行う場合の注意点も紹介しますので、調剤薬局業界での買収・譲渡・売却を検討している方はぜひ参考にしてください。
Contents
まずは調剤薬局業界の現在の市場がどのような状況か確認しておきましょう。
そもそも調剤薬局とは、医師の処方箋から薬剤師が調剤し、患者に薬を出す薬局を指します。
従来、薬は病院内で診療を受けるのと一緒に処方してもらうのが一般的でした。
しかし現在は、病院内に薬局を持たない院外処方が全体の70%を超えている状況になっています。
院外処方が増えたことを背景に調剤薬局の店舗数は急増しているのが現状で、今ではコンビニエンスストアより多くなっているほどです。
また調剤薬局業界は高齢化社会のため成長市場ではあるものの、小規模事業者が多く1店舗当たりの収益性が低いという特徴もあげられます。
調剤薬局業界の市場環境として、店舗数が急増していることを前述しました。そのため調剤薬局は今、飽和状態にあります。
また、調剤薬局業界の大手チェーンは他業種と比較すると少ない傾向にはありますが、薬価切下げや調剤報酬の伸び悩みから、小規模事業者が大手チェーン店に買収されるケースが増加しています。
2009年の改正薬事法の施行を背景に異業種からの新規参入が増加していることもあり、調剤薬局業界の競争は激化しています。
現在、調剤薬局業界のM&Aが加速しているわけですが、具体的にはどのような理由があげられるのか見ていきましょう。
主に以下の3つの理由があげられます。
薬価改定や調剤報酬改定への対応として、M&Aの需要が高まっているのが理由の1つです。
通常、経済状況などを踏まえ、2年に1度薬価や調剤報酬の改定が行われます。
増加する医療費を背景に医療費抑制の取り組みが国全体で行われており、薬価や調剤報酬のマイナス改定が相次いでいます。
なかでも特に低い調剤報酬が適用されるのが病院の目の前にある門前薬局や大手チェーンで、収益の減少が見込まれます。それにより収益確保を目的に、M&Aで事業の拡大を狙うようになっているのです。
厚生労働省が「かかりつけ薬局」への移行方針を打ち出しています。
患者がどの医療機関を受診しても、身近にあるかかりつけ薬局で薬をもらうというものです。かかりつけ薬局になるには、24時間体制や在宅に対応できなければなりません。
また、かかりつけ薬局は患者1人に対して1人の薬剤師が専属でつく必要があります。
人材も求められますし、人件費、設備費もかかります。そのため、M&Aによって人材や経営資源を獲得しようとするケースが増えています。
後継者不在の問題はどの業界でも深刻化していますが、これは調剤薬局業界も同じです。
多くの調剤薬局が、経営者の高齢化にともなって後継者不在の問題に頭を抱えています。
これまで事業承継というと、親族承継や社員が後継者になるのが一般的でした。
しかし、親族に継ぐ意思がないケースや社内に後継者に見合う人材がいないケースもあります。親族継承や社内承継が難しい場合に、多くの業界がM&Aで新しい経営者を向かえる手段を取っており、調剤薬局業界も同様にM&Aで事業承継を行うケースが増えています。
ここまで調剤薬局業界の現状や業界でM&Aが加速している背景を見てきました。
それでは、実際に調剤薬局業界でM&Aを行った場合のメリットを見ていきしょう。
買い手側と売り手側、それぞれの視点から説明します。
まずは買い手側のメリットを見ていきます。買い手側には、以下のメリットがあげられます。
これから新規で調剤薬局を出店するとなると多大なコストがかかります。
しかしM&Aですでに営業中の店舗を買い取れば、その新規出店コストを節約できます。
設備費用も抑えられますし、従業員や薬剤師もそのまま引き継げますから、求人をだす広告費や教育費用もかからなくなるでしょう。
またコストが節約できるだけでなく、開業までの時間が短く済むのもメリットと言えるでしょう。
すでにかかりつけとして地域の人が利用している調剤薬局もあります。
地域のかかりつけ顧客を獲得できるのも、調剤薬局を買収するメリットの1つです。
一定の患者が利用している店舗を買収することで、顧客をそのまま獲得でき、最初から安定した経営が可能になります。
調剤薬局を経営するには、薬剤師の存在が欠かせません。しかし近年、少子化や薬学部6年制を背景に、薬剤師不足が深刻化しています。そんななか、新たに薬剤師を確保するのは難しいでしょう。
M&Aでそのまま薬剤師を引き継ぐことで、効率的に人員の補充・確保ができるようになります。
対して、売り手側のメリットは以下のとおりです。
調剤薬局をM&Aで売却する場合、その調剤薬局にどれくらいの価値があるか算定します。
価値算定次第では高額で売却できるケースもあるので、老後のためにまとまった資金を手元に残すことができるでしょう。
これまで経営に貢献してくれた従業員や薬剤師は多いことでしょう。
経営者には自分が引退するとしても、貢献してくれていた従業員や薬剤師の雇用を確保する責任があります。
廃業となると雇用の確保は難しくなりますが、M&Aで新しい経営者に人材を引き継いでもらえば、雇用がしっかり確保できます。
医薬分業が活発になったのは1997年と20年以上前のことですから、当時調剤薬局を開業した経営者のなかには引退を考えだす人がでてくる頃。
親族、社内承継が難しい場合でも、M&Aをすれば新たな後継者をむかえることが可能になり、後継者問題を解決できます。
また、M&Aでは買収先の情報を精査して行うのが一般的ですし、買い手・売り手それぞれのトップが直接面談するため、人物面も考慮してM&Aを行えます。自社の経営を委ねるにふさわしい後継者を見つけることが可能でしょう。
無事にM&Aが成立すれば、後継者問題が解決するだけでなく廃業コストも必要なくなります。
調剤薬局業界でのM&Aのメリットは多くありますが、実際にM&Aを行うにはデメリットもしっかり理解しておかなければなりません。
次に、調剤薬局業界におけるM&Aのデメリットを紹介します。
買い手側のデメリットとして、以下の3つがあります。
買掛金や引当金といった負債が、貸借対照表に記載されていないケースが一定数あります。
貸借対照表に記載されていない債務を「簿外債務」と言います。
万が一、買収後に簿外債務が発覚することになれば、思わぬコストがかかり大きな損害を被る可能性があります。
場合によってはコストだけでなく、退職金の未払いを理由とした訴訟など、大きなトラブルに発展するケースも考えられるでしょう。
どの業界にも言えることですが、M&Aでは簿外債務を抱えるリスクがあることをあらかじめ理解しておく必要があります。
M&Aでは、方針や風土などの変化に不満を抱く従業員が出てくる可能性がありますし、そもそもM&A自体に反対する従業員もいるでしょう。
調剤薬局業界に限らず、従業員が不満や反感を理由に離職してしまうケースは少なくありません。
場合によっては経営上キーパーソンになる、優秀な薬剤師が辞めてしまう状況も考えられます。そのような事態になれば、経営計画が大幅に変わってしまう可能性があります。
M&Aでは経営統合プロセスが重要です。
この経営統合プロセスが上手くいかず、M&Aが失敗に終わってしまうケースは決して珍しくありません。
経営統合プロセスでは、組織文化や価値観などを統合するわけですが、なかでも買い手側は人事労務の統合プロセスに注意が必要です。
薬剤師が不足している調剤薬局業界で、人材は非常に貴重です。
安心して働きつづけられるよう、人事労務の統合は慎重に行なわなければなりません。
また、従業員や薬剤師への配慮を忘れないことも大切です。
経営者が変わると、従業員は待遇や環境に不安を抱えやすいものです。精神的に辛くならないような配慮が欠かせないでしょう。
調剤薬局業界での、M&Aの売り手側のデメリットは以下のとおりです。
通常、M&Aで買い手を探す場合、同業種だけでなく他業種が相手になることもよくあるケースです。
しかし調剤薬局の場合、専門職である薬剤師が必要なことから、同業内でのM&Aが多い傾向にあります。
対象が同業だけとなると、売却したくても買い手が少なく探す手間がかかりますし、交渉が折り合わず希望の価格で売却できない可能性もあります。
M&Aでは買い手側の情報を正確に知る必要があることからある程度時間が必要ですが、探す手間も含めると体力的にも精神的にも辛くなってしまいます。
従業員の視点から見れば、職場環境や雇用条件などが激変する可能性のあるM&Aは、必ずしも歓迎されるものではありません。
M&Aによる不満や反感を理由に、これまで働き続けてくれていた従業員や薬剤師が離職してしまう可能性があることも忘れてはなりません。
それを回避するためには、売却前に従業員や薬剤師の待遇や環境をしっかり決めておく必要があります。
ここで、実際に調剤薬局業界でM&Aを行うときの注意点を説明します。
検討している場合は、参考にしてください。
M&Aの前に人事労務管理の体制を整えておく必要があります。
M&Aのあと従業員や薬剤師の雇用状態が悪化しないように、あらかじめ体制を整えておきましょう。
事前に人事労務管理の体制をしっかり整えておくことは、従業員たちの離職を防ぐことにつながります。
小規模事業者の場合、経営のあらゆる部分で現オーナーに依存しているケースは珍しくありません。
あまりにも現オーナーの属人性が強い場合、経営者が交代したことにより、それまでの取引先や優秀な従業員が失われる事態も予想されます。
現オーナーから新しいオーナーに交代したところをゴールとするのではなく、M&Aが成立したあとまで視野を広げるようにしましょう。
人事労務管理だけでなく、経営統合プロセスを慎重に行い、現オーナーが引退しても薬局として機能するような組織作りを意識してください。
M&Aにおいて、タイミングの見極めは重要です。せっかく見つかった買い手も、社会情勢の変化で失ってしまうケースがあります。
また、売り手側にとって条件を吟味するのは確かに必要ですが、条件交渉が長引くと、買い手の意欲がなくなってしまうかもしれません。
タイミングを見極めるのは難しいものがありますので、経験豊富な専門家に相談するのがおすすめです。
今回は、調剤薬局業界のM&Aについて説明してきました。
調剤薬局業界のM&Aにはメリットが多い一方で、リスクや注意点が多くあります。
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調剤薬局業界でのM&Aを検討している場合は、ぜひ一度お問い合わせください。
この記事の監修M&Aアドバイザー 西井 康輔
税理士法人Bricks&UKにて、会社設立や創業融資などスタートアップの支援を数多く担当。
M&A Stationでは総合的なM&Aのサポートに従事。
業種を問わず幅広くM&A戦略の策定、事業承継についてアドバイスを行っている。
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