財務デューデリジェンスとは?知っておきたい基礎知識
2022.12.05
2022.12.05
M&Aにおいて基本合意書の締結後、必ず実施されるプロセスがデューデリジェンス(Due Diligence)です。
略称でDDとも言われるデューデリジェンスは、買収側が行うM&A対象会社への総合的な調査を意味し、財務・税務・法務・労務・IT・事業(ビジネス)などの分野ごとに、士業などの専門家を起用して実施されるものです。
本記事では、その中の財務デューデリジェンスに焦点を当て、その目的・役割・分析内容などを解説します。
Contents
どの分野に対するデューデリジェンスも、それぞれM&A実施の判断に影響を及ぼしますが、なかでも財務デューデリジェンスはとりわけ重要な役割を持ちます。
財務デューデリジェンスは、主に対象会社の財務諸表を用いて、その財務状況・会計状況の実態を調査するものです。
財務デューデリジェンスの調査結果は、買収額の決定に直結します。M&A後の経営リスクとなる簿外債務などを発見した場合には、M&A実施の是非も左右することになるでしょう。
M&Aにおける財務デューデリジェンスの主要な目的を見ていきましょう。以下の3点です。
財務諸表とは別称で「決算書」とも言いますが、具体的には以下の書類をさします。
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書は、財務三表と言われ財務諸表の中心的存在です。
財務デューデリジェンスでは、上記の財務諸表に対して、過去から現在にかけての業績・財務状況・キャッシュフローの実態を調査し、収益力を分析します。
M&A対象会社が非上場の中小企業の場合、節税を主目的とした決算書を作成することも少なくありません。
そのようなケースでは、財務諸表に記載されている内容と実態が合致しないこともあるため、より入念な調査が必要です。
M&A対象会社に財務リスクが隠されていて、M&A後にそれが発覚した場合、買い手は大きな経営ダメージを負ってしまうかもしれません。
したがって、財務デューデリジェンスでは、財務リスクの有無と、リスク内容の詳細を把握する必要があります。
最も顕著な財務リスクは、簿外債務です。
簿外債務とは、貸借対照表に載っていない債務を意味しますが、具体的には以下のようなものが該当します。
また、キャッシュフロー計算書や事業計画書の精査により、将来的な潜在債務の有無を判断したり、返済計画の妥当性を確認したりなどの調査も行います。
デューデリジェンス後の最終交渉に向け、M&A対象会社に提示する買収額を決めなければなりません。
財務デューデリジェンスでは、その金額のベースとなる企業価値評価を行います。
それ以前にも企業価値評価は行っていますが、財務デューデリジェンスで得た対象会社の実態情報を基にして、あらためて企業価値評価を行うことが必要です。
企業価値評価では、対象会社の実態貸借対照表が作成されます。これは、貸借対照表に以下のような修正を加え対象会社の財務の実態を示すものです。
財務デューデリジェンスには2つの役割があります。
財務デューデリジェンスでは、M&A対象会社の過去および現在の収益性・収益力を調査し把握します。
これにより、M&A対象会社が作成した事業計画の妥当性の判断が可能です。
事業計画の妥当性がわかることで、M&A対象会社と買い手側の間で創出が期待できるシナジー効果の内容や度合いが評価できるようになります。
また、よりシナジー効果を得るための事業方針変更案なども考察・策定できるでしょう。
M&Aでは、一元的な取引額相場はありません。すべては買い手と売り手の交渉によって取引額が決まります。
M&Aに限らず、買い手と売り手の利害は一致するものではなく、むしろ相反するものです。
両者が希望額を言い合うだけでは、交渉は進まないでしょう。そこで、財務デューデリジェンスで把握した実態を基に企業価値評価を行います。
その評価額をベースとして、M&A対象会社に提示する買収希望額を決めることで、適正価格での取引が実現する交渉ができるでしょう。
デューデリジェンスでは、実施する分野ごとに担当者を立てますが、分野間で関連性が強いものについては、連携して調査したり、セットでデューデリジェンスを行ったりするケースも少なくありません。
特に、財務デューデリジェンスの場合、財務の結果は税務に直結しますので、税務デューデリジェンスとセットで行うことが多いです。
その他にも、簿外債務となり得る訴訟リスクの調査では法務デューデリジェンスと連携したり、事業計画書の調査では事業(ビジネス)デューデリジェンスと連携したりします。
ここでは、財務デューデリジェンスで行う分析の具体的内容を見てみましょう。
賃借対照表の分析では、会計処理の適正さ(会計基準に準拠しているか)、時価純資産額の把握などの観点で以下の項目を調査します。
売上債権 | 不良債権の有無の確認 |
棚卸資産 | 不良在庫の有無、在庫計上が実態とかけ離れていないかの確認 |
仕入債務 | 買掛金や支払手形に未計上や遅延しているものはないかの確認 |
投資有価証券 | 保有株式の時価評価額と売却できるかどうかの確認 |
有形固定資産 | 土地や建物など有形固定資産の時価評価と減価償却計上の適正さの確認 |
有利子負債 | 借入先ごとの借入内容や返済計画の確認 |
退職給付引当金 | 退職給付引当金が適正に計上されているかの確認 |
損益計算書の分析で調査する主な項目は以下のとおりです。
売上高 | 収益構造の把握のため、事業・商品・サービス別の売上分析 |
売上原価・製造原価 | 売上原価推移の分析として仕入れ先や材料費の変動性、外注先などの調査 |
設備費 | 投資頻度や金額、減価償却の適切性などの調査 |
販管費(販売費・一般管理費) | 該当する勘定科目をそれぞれ分析し金額の妥当性を分析 |
人件費 | 平均人件費を算出し従業員1人あたりの生産性を算定 |
営業外損益・特別損益 | 計上されている内容(科目の判断)が適正かの分析 |
分析にあたっては、損益構造の理解と正常収益力の把握を主眼に同業他社との比較も行います。
損益計算書の分析で把握した正常収益力から、収益性の分析を行います。
過去の損益実績の分析で把握した収益構造の実態に照らし合わせて、事業計画における損益予測の妥当性を判断するのが主眼です。
一般的に分析には、EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)指標が用いられます。
EBITDAは、税引前利益に利息、減価償却費を加えたものであり、つまりは「営業利益+減価償却費」です。
減価償却費を差し引く前のEBITDAなら、会計基準の違いに関係なく国際的にも比較がしやすいため、減価償却費に左右されないため中長期的な企業価値評価ができます。
キャッシュフロー分析は、過去3期ほどのキャッシュフロー計算書を分析し、M&A後、対象会社が追加で必要とするキャッシュはどの程度かを調査するものです。
キャッシュフローには以下の3種類があり、それぞれ以下の内容を示します。
営業キャッシュフロー | 本業で生み出したキャッシュ |
投資キャッシュフロー | キャッシュ投資(M&Aなど)後の増減 |
財務キャッシュフロー | 資金調達方法 |
運転資本とは、通常の事業活動に費やす資金(資本)のことです。一般に、運転資本は以下の計算式で求めます。
(売上債権+棚卸資産+その他流動資産)-(仕入れ債務+その他流動負債)
運転資本分析は、過去の実績を分析することで、将来の正常な運転資本額を把握するのが目的です。
事業計画分析における主な調査項目は以下のとおりです。
M&A対象会社における当該事業の外部環境の把握と事業計画の整合性 |
事業計画の前提条件の把握 |
事業計画の作成方法の把握 |
過去3期程度の事業計画と実績(予算達成度)の把握による事業計画の実現性の分析 |
過去実績における売上高・売上原価・販管費の推移の分析 |
過去実績における売上高・売上原価・販管費の比率、利益率を同業他社と比較して分析 |
資金計画、開発計画、設備投資計画、販売計画、製造計画、人員計画など他の計画と事業計画の整合性 |
財務デューデリジェンスを実施する場合、一般に以下のような流れで行われます。
財務デューデリジェンスを実施するためには、財務の専門家を起用しなければなりません。
財務の専門家といえば公認会計士ですが、税理士や経営コンサルタントなどに依頼するケースもあります。
ここ注意したいのは、公認会計士などであれば誰でもよいわけではなく、M&Aに精通した財務の専門家を起用することです。
M&A仲介会社に業務を依頼している場合、専門家の選定も含めデューデリジェンス全体をM&A仲介会社が統括します。
財務デューデリジェンスで対象企業の財務全てを調査すると、人手も時間も多くかかってしまいます。
予算と期間も鑑みながら、当該M&Aで必要となる調査項目を決めなければなりません。
財務デューデリジェンスを担当する専門家やM&A仲介会社であれば、状況に応じた必要な調査項目はわかっているはずです。
当該M&Aで要点となることを鑑み、両者で協議してチェックリストを作成します。
調査内容に必要となる資料をM&A対象会社に請求します。
一般に、財務デューデリジェンスで必要となる資料は以下のとおりです。
調査を進める過程で新たな資料が必要となる場合もあるので、その都度、追加で請求します。
上に挙げた資料の中には、印刷すると膨大な量になってしまうケースもあります。
その場合には、紙資料としての提出は求めず、M&A対象会社の社屋を訪れ閲覧するのが現地調査です。
資料の調査と並行して行うものに、M&A対象会社の経営者や役員などに行うヒアリング(聞き取り調査)があります。
ヒアリングをスムーズに行うため、事前に質問事項を書面で提示しておき、回答を準備させておくのが一般的です。
一連の資料分析・調査が終了すると、財務デューデリジェンス担当者は報告書を作成します。
報告書に決まった書式はありませんが、一例として報告書のコンテンツ構成は以下のとおりです。
調査の概要
対象会社の概要
貸借対照表分析
損益計算書分析
正常収益力分析
キャッシュフロー分析
運転資本分析
事業計画分析
その他の分析
財務リスク
ヒアリングの概要
添付資料
M&Aでは、財務デューデリジェンスは不可欠のプロセスです。
財務デューデリジェンスの実施によって、適正額でのM&A取引が可能となり、埋もれている財務リスクも明らかにできます。
その際、できるだけ有効な財務デューデリジェンスとするためには、M&Aに精通した専門家を起用することが肝要です。
その最適な専門家の1つとして、M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」があります。
Bricks&UKグループには、税理士、司法書士、社会保険労務士などが各分野の専門家が在籍し、財務デューデリジェンスをはじめとしたさまざまな分野のデューデリジェンスに対応可能です。
随時、無料相談をお受けしておりますので、いつでもお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修M&Aシニアアドバイザー 齊藤 宏介
税理士法人Bricks&UKにて、税務・会計の豊富な経験から事業者の良きパートナーとして活躍。
M&A Stationではアドバイザーの中心的存在として、様々な業種の会社へのM&Aアドバイザリー業務を取り仕切る。
M&Aを成功させるための要点のひとつに「デューデリジェンス」が挙げられます。
買収対象企業の分析・評価のために実行されるもので、ここでリスクを見落としてしまうと後々取り返しがつかない危険性があります。
ただ、調査項目は多岐に渡り高度な専門知識が必要とされ、いざ必要な場面でどこに依頼すればいいか分からない方も少なくないでしょう。
多くのM&A仲介会社の業務範囲は、文字どおり「仲介」まで。デューデリジェンスに関しては、改めて依頼先を探さなければいけません。
M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」では、グループとして税理士、社会保険労務士、司法書士、M&Aアドバイザーが在籍しており、本来であれば個別に依頼が必要なデューデリジェンスもワンストップ対応が可能です。
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