経営資源集約化税制について解説!M&Aにおける活用のポイント
2021.6.11
2021.6.11
2020(令和2)年12月21日、ウィズコロナ/ポストコロナ時代を見据え、中小企業の成長を支援し地域経済活性化を図る施策として、中小企業向け経営資源集約化税制の創設が、閣議決定されました。
この経営資源集約化税制とは、「M&A時の設備投資減税」、「雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制:M&A時の給与増額に関する減税)」、「準備金の積立(損金算入を用いたM&A時のリスクの軽減)」の3要素で構成されています。
M&Aを買い手となって実施する中小企業においては、要件に適合すれば税額が控除され納税額を低減できるため、キャッシュフローが改善し財務安定化に直結するため、ぜひ活用したい有用な制度と言えます。
今回は、M&Aによる事業再編・組織再編の検討をされている中小企業経営者の方のために、経営資源集約化税制の内容を解説いたします。
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経済産業省が提出した「令和3年度(2021年度)経済産業関係税制改正について」内の「コロナ禍から立ち上がる中小企業の成長支援・地域経済の活性化」の章では、経営資源集約化税制について、以下のように述べられています。
経営資源の集約化によって生産性向上等を目指す計画の認定を受けた中小企業が、計画に 基づくM&Aを実施した場合に、①設備投資減税 ②雇用確保を促す税制 ③準備金の積立を 認める措置を創設する。
ただし、厳密には、「設備投資減税」は既存の時限税制の期限延長と要件緩和、「雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制)」も要件緩和であり、「準備金の積立を認める措置」が新設されたものになります。
そこで、新設措置である「準備金の積立」に関し、その詳細を見ていきましょう。
「準備金の積立を認める措置」とは、中小企業が買い手として株式譲渡のスキーム(手法)でM&Aを行う際、M&A実施後の簿外債務などのリスクに備えるため、その準備金として積立金処理を取った場合には、M&A投資額(取得価額)の70%以下に該当する金額を確定申告で損金算入できるものです。
ただし、株式譲渡の取得価額は10億円以下に限られます。
また、取得価額とは、株式譲渡の対価だけでなく、仲介手数料やデューデリジェンス(売却企業の精密監査)費などM&Aに要した費用の総額です。
なお、ここでいう中小企業とは、以下の要件を満たしている必要があります。
上述した準備金は、M&A実施後、実際に簿外債務などが発覚した際には取り崩すことになります。
また、この積立金処理をした準備金には据置期間5年間という条件が付けられています。
なお、据置期間経過後は取り崩していない残額を5年間にわたって均等で取り崩す、つまり確定申告にて益金参入することになっています。
設備投資減税と雇用確保を促す税制の内容についても説明しておきます。
M&Aを実施した中小企業が、M&A実施後に設備投資を行った場合、要件に該当していれば投資額の10%を税額控除、または全額即時償却を認めるものです。
(資本金3,000万円超の中小企業の税額控除率は7%)
中小企業経営強化税制として2021(令和3)年3月31日までの時限立法だったものが、2年延長されることになりました。
M&A実施に伴い、売り手企業から買い手企業に従業員の労働移転があり、買い手側が給与増額となった場合に税額控除を認める制度が改正され、要件が緩和されました。
具体的には、給与などの総支給額が対前年比で2.5%以上となった場合、給与等支給総額の増加額の25%が税額控除されます。
(総支給額が対前年比で1.5%以上2.5%未満の場合は、給与等支給総額の増加額の15%が税額控除)
経営資源集約化税制における準備金の積立を認める措置について、さらに掘り下げて具体的に見ていきましょう。
経営資源集約化税制対象の中小企業が、以下の内容で株式譲渡を行った場合の例です。
通常、株式譲渡の取得価額は資産に計上されます。
したがって、費用にはできません。
しかし、準備金の積立が認められたことから、この例で示したような税負担の軽減があるため、その分のキャッシュが手元に残ります。
M&Aの効力を発揮させるためには、M&A実施後、設備投資など、さらに資金が必要です。
キャッシュが手元に潤沢にあれば、各方面に資金を回せられます。
積立てた準備金は、実際に簿外債務などが発覚してしまい帳簿価額を減額処理する場合や、取得した株式の一部または全部を手放す場合には、取り崩すことになります。
ただし、上記のような事態にならなかった場合には、準備金は据置期間5年間という条件がついているので、積立から5年経過後、取り崩し処置をして益金算入しなければなりません。
この益金参入方法も定められており、5年間での均等取り崩しです。
前項の例で計算すると以下のようになります。
損金算入時は準備金全額一括でしたが、益金算入時は5年間の均等割であるため、納税時の負担軽減が図られています。
中小企業事業再編投資損失準備金の積立措置が認められるには、前述した中小企業の規模や取得価額以外にも、以下の3要件を満たさねばなりません。
【前述した要件】
中小企業事業再編投資損失準備金の積立措置が認められるための最大のポイントは、経営力向上計画の認定にあると言えるでしょう。
これは既述のとおり、2024年3月31日までに認定を受けなければなりません。
一方、準備金の積立措置と合わせて用いたい設備投資減税ですが、こちらは2年延長され2023(令和5)年3月31日が期限です。
いずれもウィズコロナ/ポストコロナ時代を強く意識したものであるため、このような時限措置が取られています。
書面や資料の準備など、場合によってはタイトなスケジュールとなるかもしれませんが、適用時期を忘れずに準備をしてください。
また、断言はできませんが、設備投資減税の改正・延長の例もあることから、時代状況や要請などにより、設備投資減税の再延長や準備金の積立措置延長もあるかもしれません。
税制改正論議などについて、随時、情報収集もしておくとよいでしょう。
経営資源集約化税制のうち、新たに創設される「準備金の積立を認める措置」については、2021年6月8日現在、まだ施行には至っていません。
したがって、微細な注意点は施行後、明らかになるはずですが、現段階においても確定と言える留意事項がありますので、ここではそれらをお伝えします。
経営資源集約化税制の適用を受けるためには、経営力向上計画を作成し、指定された官庁に提出して認定を受けなければなりません。
この経営力向上計画とは、すでに施行されている中小企業等経営強化法において運用されているものです。
したがって、経営力向上計画の内容や作成・申請の仕方については、中小企業庁から詳細な案内が出ています。
ホームページ開設やパンフレットの配布、また業種によっては電子申請も可能となっているので、一度、確認してみましょう。
なお、実際に経営力向上計画を作成するにあたっては、中小企業庁による認定経営革新等支援機関にサポートを受けるのがおすすめです。
経営革新等支援機関に認定されているのは、主として商工会議所、商工会、中央会、金融機関、士業事務所などで、具体的な機関名は中小企業庁のホームページで公開されています。
全国に数多くの認定経営革新等支援機関がありますので、身近な場所で見つかるはずです。
経営力向上計画は既述のとおり、2024年3月31日までに認定を受けなければなりません。
しかも、2021年6月現在で準備金の積立に関する法令が施行されておらず、まだ具体的な準備に入れない状況です。
ただでさえ、日常の経営とは別次元で煩雑なプロセス・手続きなどを伴うM&Aを進めている最中に、そこに加えて、複雑な内容である経営力向上計画を作成することになります。
これは、端的に言って、事務的な諸準備の作業が増えることを意味しており、十分にそれを承知してかからねばなりません。
いずれにしろ、準備金の積立に関する法令の施行について情報収集を怠らず、いつでも作成に入れるようにしておきましょう。
準備金の積立を行うためには、M&A(株式譲渡)自体を2024年3月31日までに実施し、認定を受けた経営力向上計画に記載しているように株式を取得する必要があります。
つまり、事務的な煩雑さもさることながら、本筋であるM&Aの交渉・成約についても、スケジュールをにらんで実施しなければいけません。
経営資源集約化税制は、M&Aを実施する中小企業を税制面で支援し、キャッシュフロー上、優位を得られるようにする制度です。
助成金や補助金のようにキャッシュを直接、援助してもらえるわけではありません。
したがって、そもそもの資金繰りを安定させ、財務面の基盤をしっかりと固めてあればこそ活かせるのが、経営資源集約化税制といえるでしょう。
M&Aの買い手であれば多額の資金も必要ですから、その意味でも経営・財務の足場固めは重要な意味を持ちます。
ウィズコロナ/ポストコロナ社会において、M&Aと中小企業の実態を鑑みると、経営資源集約化税制の必要性が浮き彫りになります。
主とした事由は、以下の2点です。
経済産業省の調べによると、M&Aを実施した中小企業と実施していない中小企業を比べたとき、M&Aを実施した中小企業の方が、生産性が向上していることがわかりました。
また、現在、M&Aは事業承継手段として用いられることも増えてきており、中小企業がM&Aを実施する数も年々増加中です。
しかし、中小企業が実施するM&Aは、大企業のように社内に専門スタッフがいるケースは少なく、また、大企業ほど数多くM&Aを実施するわけでもないため、その経験値は高くないと言わざるを得ません。
さらに、買い手企業としてはM&Aの最終契約前に十分にデューデリジェンスを実施すべきですが、中小企業が買い手の場合、予算や時間の問題から不十分なデューデリジェンスで成約しているケースも多い傾向にあります。
その結果、中小企業のM&Aでは、実施後に簿外債務、偶発債務、減損などの問題が発生しやすいという課題が明るみになりました。
そのための対策として、経営資源集約化税制の準備金積立~損金算入が導入されました。
既述のとおり、中小企業が買い手となり10億円以下でM&A(株式譲渡)を実施した際、取得価額の最大70%の金額が準備金として積立金処理できます。
これまで、株式の取得価額は資産に計上され費用化できなかったのが、積立金処理で損金算入できるのですから、大きな減税効果を得るのは確実です。
また、損金算入が準備金額一括であるのに対し、後日の益金算入は、5年間の据置期間後に、5年間に分けて均等取り崩しでいいわけですから、その意味でも、M&Aを買い手として実施する中小企業に与えられた、税制上のアドバンテージは大きいといえるでしょう。
経営資源集約化税制に関し、以下の内容について詳細を確認してみましょう。
今回の税制改正では、中小企業者等の法人税の軽減税率適用、そして、中小企業経営強化税制も2年間(2023年3月31日まで)延長されました。
特に中小企業経営強化税制では、内容の改正も盛り込まれています。
中小企業経営強化税制とは、中小企業等経営強化法の認定を受けた計画に基づく投資について、即時償却または税額控除10%のどちらかの適用を認めるものです。
(資本金3,000万円超の中小企業者等の税額控除率は7%)
そして、今回の改正により、従来は投資内容に盛り込まれていなかった「M&Aの効果を高めるための設備投資」も、その対象に加えられました。
この税制および改正の狙いは、中小企業が行う、稼ぐ力・生産性を向上させる取組を支援することにあります。
中小企業経営強化税制の具体的な要件を掲示します。
【投資対象設備の価額要件】
機械装置 | 160万円以上 |
ソフトウェア | 70万円以上 |
器具備品・工具 | 30万円以上 |
建物附属設備 | 60万円以上 |
【設備内容の類型】
生産性向上設備(A類型) | 生産性が旧モデル比平均1%以上向上する設備 |
収益力強化設備(B類型) | 投資収益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備 |
デジタル化設備(C類型) | 遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかを可能にする設備 |
経営資源集約化設備(D類型) | 修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定以上、上昇する設備 |
上記の経営資源集約化設備(D類型)が、今回の改正で追加されたM&Aの効果を高める設備と目されます。
ROA(Return On Asset)とは総資産利益率のことであり、計算式は以下のとおりです。「ROA=当期純利益÷総資産×100」
【その他の要件】
今回の経営資源集約化税制の3点セットのもう1つ、所得拡大促進税制の改正内容について、旧制度との比較で緩和された要件を確認してみましょう。
【通常要件】
旧制度(下記両方の要件が必須) | 新制度(1要件のみに変更) |
継続雇用者給与等支給額が前年度比で1.5%以上 | 給与等支給総額(企業全体の給与)が前年度比で1.5%以上 |
給与等支給総額(企業全体の給与)が前年度以上 | – |
【上乗せ要件】
旧制度 | 新制度 |
継続雇用者給与等支給額が前年度比で2.5%以上、かつ下記のいずれかを満たしている | 給与等支給総額(企業全体の給与)が前年度比2.5%以上、かつ下記のいずれかを満たしている |
教育訓練費が対前年度比10%以上増加 | 教育訓練費が対前年度比10%以上増加 |
中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上が確実になされている | 中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上が確実になされている |
また、通常要件を満たしている場合の減税措置「給与等支給総額の増加額の15%を税額控除」と、上乗せ要件を満たした場合の減税措置「給与等支給総額の増加額の25%を税額控除」には、変更はありません。
なお、控除には上限額があり、それは法人税額の20%までとなっています。
今回、改正・導入された経営資源集約化税制が、今後の中小企業のM&Aに及ぼす影響について、買い手・売り手・M&A仲介機関、それぞれの観点から考えてみましょう。
経営資源集約化税制がM&Aの買い手にもたらすことが確実なのは、減税効果によるキャッシュフローの改善化です。
M&Aの買い手としては、M&Aの対価支払いに資金が必要ですが、M&Aで得た事業・資産・技術・ノウハウ・人材などを有効活用し業績拡大を果たすためには、M&A後においても投資資金は欠かせません。
しかし、大企業と違って中小企業ではキャッシュフローに限界があり、せっかくM&Aを実施しても、その効力を得るための投資がすぐには実行できないケースも少なくありませんでした。
本来、M&Aは、時間を短縮して業績拡大を図れることがメリットです。
それが、資金不足によって成長スピードが鈍化してしまうのは、当該企業にとっても痛手であり、ひいては地域経済、そして日本経済全体の停滞に繋がりかねません。
ましてや、現在はウィズコロナ/ポストコロナ社会となり、業種によっては、とても大きなダメージを受けています。
この状況において、業態転換は落ち込みを覆す有効な手立てであり、それをスピーディーに成し遂げる手段として、M&Aは効力を発揮できるはずです。
経営資源集約化税制をよく研究し、それを活かしてM&Aを実施していくことが、ウィズコロナ/ポストコロナ時代では、1つの経営トレンドとなり得るかもしれません。
現状、経営資源集約化税制の直接的な恩恵にあずかれるのはM&Aの買い手側です。
ただし、経営資源集約化税制が敷かれたことで、M&A市場が大きく変わることもあり得るので、売り手側としても、この状況には注視しておきましょう。
近年、コロナ禍に見舞われた2020(令和2)年を除けば、M&Aの成約数は毎年、増加の一途をたどっていました。
そこで、経営資源集約化税制が導入されたことによって、積極的にM&Aを実施しようとする買い手が増えることは明らかであり、おそらくは、再びM&A市場は増加傾向となるでしょう。
2020年は、コロナ禍の影響により休廃業・解散および倒産企業数が、いずれも大きく前年を上回る見通しです。
しかしながら、今後はM&Aの買い手が増加に転じるのは明白なわけですから、後継者不在による事業承継のケースも含め、売り手として積極的にM&Aを活用する準備をしておくことで、休廃業・解散および倒産を避けられる確率は高められるでしょう。
中小企業にとってM&Aは簡単な決断ではなく、また、数多くM&Aを経験しているというのは稀であり、大多数の中小企業はM&Aに不慣れです。
M&Aに不慣れということは、その知識も不足しがちであったり、何か誤解をしてしまっていたりすることもあります。
特に、誤解の最たるものとして、「会社を乗っ取られる」、「会社を売り飛ばす」といったような、M&Aへのネガティブなイメージが未だ一部にあるようです。
M&A仲介会社や税理士などの士業、金融機関、証券会社などM&A仲介事業を行う各民間機関は、単にM&A仲介業を担うだけでなく、無料相談やセミナーなどを通じ、有効な経営戦略であるM&Aがより普及するよう、啓蒙的活動にも力を入れるべきでしょう。
また、その際には、各都道府県に設置されている公的機関である事業承継・引継ぎ⽀援センター、商工会・商工会議所などとうまく連携することも1つの手段です。
※従来の公的機関であった事業承継ネットワークと事業引継ぎ支援センターが2021年4月に統合され、事業承継・引継ぎ⽀援センターとなりました。
買い手となる中小企業は、経営資源集約化税制の各減税措置を十分に得られるよう、準備・スケジューリングなどを念入りにM&A仲介機関と相談し、もれがないように手配を進めておきましょう。
現状の経営資源集約化税制はM&Aの買い手向けの減税効果を目的としていますが、近い将来、中小企業の売り手に対しても何らかの税制改正・減税導入が図られる可能性もあります。
税理士などから逐次、情報取集するように努めましょう。
経営資源集約化税制を十分に活用したM&Aを実施するには、単にM&A仲介業務を行うだけでなく、税務にも強く、M&A実施後の各種税務処理・対策も相談できるM&A仲介機関にサポートを依頼するのが1番の得策です。
企業経営についてM&Aも含めた総合的なサポートを行っている「税理士法人Bricks&UK」では、グループとして多くの公認会計士、税理士、社労士、司法書士、M&Aアドバイザーなどが在籍しています。
期待どおりに経営資源集約化税制を活用したM&Aを実現できる最適な相談先が、Bricks&UKです。
M&Aや経営資源集約化税制、あるいはそのほかの経営に関するお悩みなど、ご遠慮なくご相談ください。
M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」は、顧問契約数2,100社以上、資金繰りをはじめ経営に関するコンサルティングを得意分野とする総合事務所です。
中小企業庁が認定する公的な支援機関「認定支援機関(経営革新等支援機関)」の税理士法人が、皆様のM&A成功を強力サポートします。
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