M&Aにおける財務分析とは?方法や財務諸表の見方を徹底解説
2023.11.21
2023.11.21
M&Aを行う場合、売り手側企業の安全性や収益性をしっかり把握する必要があります。
そこで必要とされるのが対象企業の「財務分析」です。
本記事では財務分析とはどのようなものか説明します。実際の分析方法も紹介しますので、参考にしてください。
Contents
M&Aを行うときに必要なのが財務分析です。
財務分析とは、財務諸表のデータを分析することを指します。財務分析を行えば、企業の安全性や収益性を知ることが可能です。
経営戦略を検討するために自社の経営者や担当者が行うことが一般的ですが、M&Aにおいてはデューデリジェンスの際に財務分析が行われます。
デューデリジェンスとは、買い手側が売り手企業の価値やリスクを調査すること。デューデリジェンスの項目には財務も含まれていますから、そこで財務分析が行われます。
財務分析は5期分~10期分行うことが望ましいでしょう。最低でも3期分の財務分析が必要です。
財務分析によって、企業の安全性や収益性だけでなく、成長性や資産活用の目安にもなる生産性、効率性を把握することも可能です。
そもそも、なぜM&Aで財務分析が必要なのでしょうか。求められる理由を説明します。
M&Aを実施したあとに、簿外債務が発覚することは良くあります。この簿外債務とは貸借対照表に計上されていない債務のことです。
後々、発覚すれば予想外の債務を負う可能性があるでしょう。
財務分析を行えば、企業の正確な財務状況を知ることができます。予想外の事態も避けられますし、安心してM&Aを行えます。
M&Aを失敗させないために、財務分析は欠かせない作業です。
また、差別化しやすい点もメリットといえるでしょう。メニューや店舗の雰囲気、立地やサービスなど、様々な面で差別化することができます。
内容について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
貸借対照表とは、企業の決算日における「資産」「負債」「純資産」が記載された財務諸表のことで、バランスシート(B/S)とも呼ばれています。左に資産、右に負債と純資産が記載されているのが一般的です。
貸借対照表では、預金や負債の残高を知ることができます。資産、負債、純資産の部で、それぞれ以下の内容が記載されています。
なお、資産の部と負債の部および純資産の部の合計は、必ず一致することになっています。
損益計算書は、企業の利益を知ることができる財務諸表です。
「Profit and Loss Statement」を省略してP/Lとも呼ばれています。
損益計算書には、企業の収益、費用、利益が記載されており、資金の使途やどれだけの売上で利益がどれくらい出たかを分析することが可能です。
損益計算書では、主に以下の5つの利益に注目します。
キャッシュ・フロー計算書とは、お金(キャッシュ)の流れ(フロー)を記載した財務諸表のことを指します。
分析すれば、事業年度や四半期における最終的なお金の増減を把握することができます。
キャッシュ・フロー計算書では、企業の経営活動を以下の3つに区分します。
実際にM&Aで財務分析を行うときの方法を説明します。
M&Aでは、次の5つの項目について財務分析を行います。
それぞれの方法を確認しておきましょう。
企業の稼ぐ力を分析するのが収益性分析です。
利益を上げ続けることができなければ、企業としての継続は難しくなります。そのため収益性分析は欠かせない分析です。
収益性分析の代表的な指標は、「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」「自己資本利益率」「総資本営業利益率」「総資本経常利益率」の5つです。
それぞれの計算式と内容は以下のとおりです。
本業の収益性がわかるのが売上高営業利益率です。
計算式は以下のとおりです。
計算で出した数値が高いほど、本業での収益性が高いことになります。
売上高総利益率は、企業全体の収益性がわかる指標です。
以下の計算式で求められます。
売上高経常利益率が高い場合、全体的な経営活動による収益性が高いことを意味します。
自己資本利益率は、集めた自己資本が効率的に活用されているかを知る指標です。
「Return on Equity」を省略して、ROEとも呼ばれています。
以下の計算式で求めることが可能です。
総資本営業利益率は、投下した資本に対してどれだけ本業から利益が得られているかを確認することができる指標です。計算式は以下のとおりです。
総資本経常利益率では、投下した資本に対して企業の通常の活動からどれだけ利益が得られているかを知ることができます。総資本経常利益率の計算式は、以下のとおりです。
総資本経常利益率が高い場合、資本が効率的に使われていることになります。
次に、安全性分析の方法を紹介します。安全性分析では、企業の支払能力を分析します。
主に「流動比率」「当座比率」「自己資本比率」「固定比率」の4つの指標があります。
短期的な企業の支払能力を示す指標が流動比率です。計算式は以下のとおりです。
計算した結果、100%以下の場合、資金が不足する可能性があると言えるでしょう。一般的な理想は200%とされています。
当座比率も、企業の短期的な支払能力を示す指標です。流動資産から棚卸資産を差し引いた当座資産をもとに計算するという違いがあります。
当座比率では、支払能力をより厳しく評価することが可能です。計算式は以下のとおりです。
当座比率の一般的な目安は120%です。より高いほど、短期的な支払能力が高いと言えます。
自己資本比率は、企業の全ての資本のうち、自己資本がどれだけ占めているかを示す指標です。
以下の計算式で求めることができます。
自己資本とは返済の必要のない資金ですから、計算した結果が高いほど企業の安全性が強いと言えます。
保有する固定資産を自己資本で購入したか借入によって購入したかによって、企業の安全性は変わってきます。
固定比率は、自己資本に占める固定資産の割合を示す指標です。
計算式は以下のとおりです。
固定比率が100%以下であれば、保有する資産は全て自己資本でまかなわれていることになります。
成長性分析とは、一定期間の企業の成長性を分析することです。これにより将来の成長の可能性を知ることができます。
代表的な指標には、「売上高増加率」「経常利益増加率」「総資本成長率」があります。
それぞれ説明します。
売上高を前期と比較したときに、どれだけ増加しているかを示す指標が売上高増加率です。
同じく、計算式も確認しましょう。以下のとおりです。
数値が高いほど、企業が成長していることを意味します。
経常利益が前期と比較してどれだけ増加したかを見る指標です。
計算式は以下のとおりです。
総資本が前期と比較してどれだけ増加したかを見る指標です。
計算式は以下のとおりです。
効率性分析は、企業がどれだけ効率的に利益を出しているかを知るための分析です。
代表的な指標として、「総資本回転率」「固定資産回転率」「棚卸資産回転率」の3つがあります。
資本を使ってどれだけ効率的に売上高を獲得したかを示す指標で、以下の計算式で求めることが可能です。
回転数が大きいほど、資本が有効活用されていることを意味します。
企業が保有する固定資産がどれだけ有効活用されているかを示した指標で、計算式は以下のとおりです。
商品の仕入れや販売がどれだけ効率的に行われているかを示す指標です。
計算式は以下のとおりです。
回転数が大きすぎる場合、在庫が少ない可能性が考えられます。また小さすぎると、在庫が過剰になっている可能性があります。
生産性分析とは、従業員や設備などの経営資源をどれだけ効率的に活用しているかを評価する分析です。
代表的な指標は、「労働生産性」「資本生産性」「労働分配率」の3つです。
従業員1人あたりが生み出す付加価値の金額を示す指標です。
付加価値とは、生産過程で付けられた新たな価値のことを指します。
労働生産性の計算式は以下のとおりです。
労働生産性が高ければ、労働力が効率的に使われていることになります。
保有している資本に対して、どれだけ効率的に価値を生み出しかを示す指標です。
計算式は以下のとおりです。
資本生産性は、業種によって平均値が異なる指標です。業種間の比較ができない点に注意しましょう。
付加価値額に対する人件費の割合を示します。
労働分配率を見れば、付加価値額の何%が人件費に分配されたかがわかります。
労働分配率を求める計算式は以下のとおりです。
労働分配率が低ければ、少ない人件費で付加価値を生み出していることになります。
財務分析には多種多様な手法が存在し、何を知りたいのかによって用いるべき手法は変わってくるため、知りたい要素や目的によって使い分けることが大切です。
ここで、M&Aで財務分析をする場合のコツを紹介します。以下のポイントを押さえて財務分析を行ってください。
指標によっては、業種が違うと平均値が変わることもあります。
財務分析では競合他社と比較するとわかりやすいでしょう。自社の立ち位置を確認することもできます。
さらに時系列で比較すれば今後の成長性が評価できます。
M&Aで財務分析を行うときは、専門家に相談するのもポイントです。複雑な計算もありますし、適切なアドバイスも受けられます。
また、それぞれの指標は企業のある一面を表しているに過ぎません。
財務分析を行う場合はできるだけ複数の指標を用いて、会計以外のデータも活用しながら多面的に分析し判断することです。
今回紹介した財務分析を含めM&Aでは専門的な知識が必要なため、専門家に依頼すると安心でしょう。
ただし専門家と言っても、得意分野はさまざまです。依頼には注意しなければなりません。
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この記事の監修M&Aシニアアドバイザー 齊藤 宏介
税理士法人Bricks&UKにて、税務・会計の豊富な経験から事業者の良きパートナーとして活躍。
M&A Stationではアドバイザーの中心的存在として、様々な業種の会社へのM&Aアドバイザリー業務を取り仕切る。
M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」は、顧問契約数2,500社以上、資金繰りをはじめ経営に関するコンサルティングを得意分野とする総合事務所です。
中小企業庁が認定する公的な支援機関「認定支援機関(経営革新等支援機関)」の税理士法人が、皆様のM&A成功を強力サポートします。
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