事業経営におけるM&Aの有用性とメリット・デメリット
2021.9.06
2021.9.06
この数年来、上場企業が行うM&A実施数は過去最高水準にあります。
そのため、各種報道でM&A関連ニュースを目にする機会も増えました。
また、情報が開示されない中小企業においても、上場企業と同様にM&Aは活発化の傾向を見せています。
事業経営に有効とされるM&Aを経営戦略の選択肢に加えることは、大企業だけのものではなくなってきているのです。
ただし、そのためにはM&Aをよく知る必要があります。まずはこの機会に、M&Aの基礎について把握しましょう。
Contents
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、Mergersは合併、Acquisitionsは買収を意味します。
つまりM&Aとは、複数の企業が1つに統合されたり、一方の企業が他方の企業の経営権を取得したりすることの総称です。
ここでは、合併と買収に関し、もう少し詳しく見てみましょう。
複数の企業が丸ごと統合され、1つの企業になるのが合併です。
統合の結果、1社のみが存続し(存続会社)、それ以外の企業は解散・消滅します(消滅会社)。
合併は、相手企業(消滅会社)の取得、グループ企業間の組織再編などを主な目的として行われます。
存続会社は、消滅会社の事業・資産・権利義務・人材などの全てを丸ごと承継します。
その際、合併を実施する対価として、株式・社債・新株予約権などを用いる点が特徴です(現金を対価とすることも可能)。
合併には、吸収合併と新設合併の2種類のスキーム(手法)があります。
両者は、既存の法人格を残すか、全ての法人格が消滅し新法人を設立するかという点が異なります。
吸収合併とは、既存の会社同士による合併のことです。
新設合併とは、合併のために新しく設立された会社が存続会社となり、既存の会社は消滅会社となる合併のことを指します。
対価(現金)をもって、売り手企業の事業や会社の経営権を取得するのが買収です。
一般に中小企業のM&Aで多く用いられるのが買収ですが、具体的なスキームとして主に株式譲渡と事業譲渡の2つに分かれます。
株式譲渡とは売り手企業の株式を買収することで、その企業の経営権を取得するスキームです。
株主が変わることで経営者は新たになりますが、それ以外、売り手企業側には何の変化もなく、会社は丸ごと買い手に承継されます。
事業譲渡とは、売り手企業の事業やそれに関わる資産を、売り手・買い手が協議し選別して売買するスキームです。
売り手としては会社組織および売却しなかった事業や資産は手元に残り、不要なものだけ売却できます。
買い手としても不要なものは省き、欲しい事業と資産のみを買収できるのが特徴です。
合併では必ず消滅会社がいますが、買収ではそれは起こりません。
また、買収の際の対価は専ら現金ですが、合併では株式・社債・新株予約権を対価にできる点が大きな違いです。
合併の主なメリットは以下の点が挙げられます。
一方、以下の点などがデメリットになります。
買収のメリットには主に以下のようなものが考えられます。
対して、買収にも以下のようなデメリットがあります。
M&Aを買い手として実施する場合、主として期待できる経営上の効果には以下のようなものがあります。
会社のさらなる収益拡大、あるいは安定化のための施策として事業の多角化があります。
事業を多角化することで、シナジー効果による収益拡大とリスク分散による経営の安定化が期待できます。
しかし、新たに事業を一から立ち上げて進めていくには、相応の時間と労力とコストが伴います。
事業が必ず成功するとも限りません。
その点、M&Aによる買収で別事業を獲得できれば、時間と労力を大幅に省くことが可能です。
コストについても、一から立ち上げるより安くすむはずです。
また、既に成立している事業を取得するわけですから、失敗するリスクも極めて低いと言えます。
このように事業多角化の実現にはM&Aが非常に有効な手段と考えられます。
同業種の会社をM&Aで買収した場合、その会社の持つ企画力・開発力・技術力・特許などの知的財産・ノウハウなどの資産が丸ごと手に入ります。
それらは、単にシナジー効果を生むだけでなく、自社の企画力・開発力・技術力・ノウハウなどが向上し、自社の既存事業は強化されます。
さらに、活用できる知的財産を売り手企業が所持しているのであれば、それを活かした新商品の開発などが可能となり、一層、事業強化は進むでしょう。
昨今は中小企業においても、外国企業とのM&AであるクロスボーダーM&Aが増えてきました。
このクロスボーダーM&Aにおいて、日本よりも法人税率が低い外国の企業と合併したとします。
その際に、本社所在地を日本国内から当該国に変更することによって、節税効果を得られるのです。
これをタックス・インバージョン(租税地変換)といいます。
また、国内企業同士の合併でも、一定の要件さえ満たせば消滅会社の繰越欠損金を引き継げる制度があります。
消滅会社が繰越欠損金を持っている必要がありますが、一定の要件を満たし適格合併と認められれば節税に役立てられるのです。
M&Aを実施すれば必ず企業規模は拡大します。
そのときに発現する効果が、規模の経済(economic of scale)です。
規模の経済には主として、業績向上と利益率向上があります。
業績向上の端的な効果は市場シェア拡大です。
同一業種の会社をM&Aで買収・合併すれば、その会社の分の市場シェアは上積みされます。
利益率向上とは言い換えればコスト削減効果です。
規模の経済でいわれるコスト削減の具体的な効果としては、以下のようなものがあります。
また、企業規模が拡張したことによって広告宣伝費も増額できることになり、業績がさらに向上する期待が持てます。
さらに、企業規模が大きくなったことによって、融資交渉などが有利になる可能性も見込めるでしょう。
M&Aを売り手として実施する場合に期待できる効果には、以下のようなものが挙げられます。
それぞれの内容を説明します。
近年、日本の多くの中小企業では、後継者不在による事業承継問題が大きな課題となっています。
高齢となった経営者に後継者がいなければ、会社は廃業するしかありません。
そうなれば従業員は解雇となり、そのような会社が増えれば地域経済、ひいては国内経済全体にも悪影響があります。
従来、日本では経営者の子供などが後継者となる親族承継が一般的でした。
しかし、少子化と価値観の多様化によって、後継者不在、あるいは親の後を継がないケースが増えたのです。
次善の策として、会社の役員・従業員が後継者となる社内承継もあります。
この場合、後継者は親族ではないため、会社の株式を相続できません。
したがって、経営権を握るために株式を購入しなければならず、その資金がないために後継者を辞退するケースも多くあります。
そこで着目されたのがM&Aによる第三者への事業承継であり、昨今、それは広まりを見せています。
M&Aで会社を売却することによって、その買い手が新たな経営者(後継者)となり事業承継が実現。これにより会社は廃業を免れ存続することになり、従業員の雇用や屋号が守られことになります。
会社の創業者である経営者(株主)が、株式譲渡のスキームでM&Aを実施した場合、その対価は株主である経営者に支払われます。
会社の規模や業績に応じた金額が得られるわけであり、それこそが創業者利益です。
創業者は、会社を創業しここまで経営してきた報いを獲得できます。
また、利益ではありませんが、債務や個人保証・担保差し入れなどの解消も、M&A実施による経営者個人のメリットです。
株式譲渡を実施した場合、売り手の会社は丸ごと買い手に承継されます。
つまり、債務も買い手が承継することになりますから、中小企業の経営者が融資契約の際に結ぶことの多い、経営者の個人保証や担保の差し入れなども全て解消されるのです。
なお、事業譲渡を実施した場合は株式譲渡とは状況が変わります。
まず、事業を譲渡する主体は会社ですから、譲渡の対価は会社に支払われ経営者個人には支払われません。
次に、事業譲渡では譲渡する内容を売り手・買い手が協議して決めますが、大概のケースで債務の引き取りは買い手に拒絶されます。
したがって、債務は会社に残り個人保証や担保が解消されることもありません。
企業が複数の事業を行っている場合、どの事業もうまくいっていればいいのですが、なかには、いずれかの事業が赤字となってしまっているケースもあるでしょう。
この場合、事業譲渡によってその赤字事業を売却できれば、以下の3つの効果が得られます。
事業譲渡では、事業やそれに関連する資産の売却に伴って、その事業を担当している従業員も移籍するのが一般的です。
移籍といっても、事業譲渡契約の内容に従業員の雇用は含められません。
したがって、この場合は、従業員に事情を説明し同意を得られれば、売り手企業を退職し買い手企業と新たに雇用契約を締結するという流れになります。
その結果、売り手企業としては事業譲渡が人員削減につながり、会社がスリム化され固定費(人件費)の低減効果も得られるのです。
M&Aのスキームや個々の事情によって多少の差はありますが、おおよそM&Aは以下のようなプロセスで進みます。
STEP.1 M&Aの目的や方向性を明確に定める
STEP.2 M&A仲介会社などの専門家に相談する
STEP.3 M&Aの方針・戦略・課題・売却価額などを検討する
STEP.4 M&A先の選定・交渉を始める
STEP.5 基本合意の締結を行う
STEP.6 買い手側によるデューデリジェンスが実施される
STEP.7 最終条件の交渉に入る
STEP.8 最終契約の締結を行う
各プロセスの概要を掲示します。
まずは、経営者もしくは自社内でどのような目的を持ってM&Aを行うのか、M&A後に何を目指すのかなどについて十分に検討し、それらを明確化させます。
M&Aに関する情報収集を十分に行うことがポイントです。
さまざまな専門的知識・経験が必要となるM&Aを、自力のみで行うのは困難です。
したがって、M&A仲介会社など専門家のサポートは欠かせません。
各社が行っている無料相談を活用し、依頼先を選定します。
選定し契約した専門家のアドバイスを受けて、正式なM&Aの方針・戦略・希望条件などを決めます
。その際に企業価値評価(バリュエーション)も受け、その評価額を基に希望売却価額を定めるのが一般的です。
ノンネームシート(匿名の企業概要書)を買い手候補に配布し、手を挙げた相手のなかから交渉先を絞り込みます。
交渉相手が決まったら秘密保持契約を締結し、交渉開始です。情報を開示し、双方の経営者同士による面談も行います。
交渉により大筋の合意が形成された場合、基本合意書を締結します。基本合意書は現段階における合意内容の確認書といった位置付けです。
基本的に法的拘束力はないとされており、このあとでも条件が折り合わないなど場合によってはM&Aが破談となることもあります。
最終契約をするか否か、また、その内容を定めるため、買い手側により売り手企業に対してデューデリジェンス(買収監査:売り手企業の精密監査)が行われます。
財務・税務・法務・労務など多方面にわたって実施され、虚偽や隠れたリスクがないか調査するのです。
デューデリジェンスで得られた情報を基にして、最終契約の条件交渉を行います。
ここで大きな問題が出ていなければ、基本合意書の内容で交渉がまとまるケースも多いです。
交渉し合意した内容で最終契約書を締結します。この締結以降は、契約内容の変更はできません。
なお、最終契約書とは便宜上の呼称で、実際に「最終契約書」という書類が存在するわけではありません。
株式譲渡なら株式譲渡契約書、事業譲渡なら事業譲渡契約書とそれぞれのスキームに合わせた名目となります。
今やM&Aは、中小企業にとっても有効な経営戦略です。
M&Aへの理解を深めることで、自社が取るべきM&Aの戦略も明確になるでしょう。
実際にM&Aを進める場合には、専門家のサポートの活用が不可欠です。
M&A成功の秘訣は自社のニーズに適した専門家選びにあると言っても過言ではありません。
M&A Stationでは、豊富なM&Aの知識と経験を有するアドバイザーが多数、在籍しています。
また、グループ内には公認会計士、税理士、社労士、司法書士などが数多く在籍しており、万全な体制でM&Aのサポートが可能です。
さらに、M&Aまでの経営サポート、M&A後のPMIや各種サポートもお引き受けできるという強みもあります。
M&A・事業承継をご検討される際には、お気軽にご相談くださいませ。
M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」は、顧問契約数2,100社以上、資金繰りをはじめ経営に関するコンサルティングを得意分野とする総合事務所です。
中小企業庁が認定する公的な支援機関「認定支援機関(経営革新等支援機関)」の税理士法人が、皆様のM&A成功を強力サポートします。
豊富な案件からスムーズなマッチングを実現。
効率的な資金調達や、財務・税務・ビジネス・法務・人事、あらゆるDD(デューデリジェンス)を自社内で一括で行うなど、 買収や合併後、制度面や業務面でのスピーディな統合を実現し、シナジー効果の獲得に直結するM&Aを支援いたします。
まずは無料相談からお気軽にお問い合わせください。
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