M&Aにおける偶発債務とは?簿外債務・引当金との違い
2023.12.27
2023.12.27
M&Aを行う際、対象会社の債務については細心の注意を払う必要があります。
中でも「偶発債務」の存在には注意しなければなりません。
偶発債務とはどのような債務を指すのか?どのような種類があるのか?これらを特に買い手側企業は理解しておく必要があります。
本記事では偶発債務について詳しく説明します。簿外債務や引当金との違いもあわせて確認していきましょう。
Contents
偶発債務とは、現時点では発生しておらず、一定の事由を条件に将来債務として発生するおそれのある債務を指します。
現時点では正確な負債額は確定していないため、貸借対対照表には注記で内容と金額を記載します。
注記に記載すれば、株主等の利害関係者に情報を流せます。
どのようなものが偶発債務に該当するのでしょうか。具体的な偶発債務を紹介します。
以下のものがあげられます。
債務保証とは、債務者が債務不履行になったときに代わって債務履行する責任を負うことを指します。ひとことで言えば、お金を借りる場合の保証人です。
債務保証を引き受けている会社は、借り手が債務不履行となればその債務の返済を引き受けなければなりません。
債務を抱えるリスクがあるため、債務保証は偶発債務であると言えます。
未払い賃金の存在が確定すれば、その時点で支払い義務が生じます。
会社の損失になるため、未払い賃金も偶発債務の1つとして捉えられます。
未払い賃金は、例えば以下の場合に発生します。
上記の未払い賃金は存在に気付くのが難しく、社員や労働基準局からの指摘でわかるケースも少なくありません。
未払い賃金は現在中小企業で恒常的に発生していると言われており、注意が必要です。
デリバティブとは金融派生商品のことで、主に金融機関が企業向けに販売しています。
株式や債券などの金融商品を扱う以下のような取引をデリバティブ取引と言います。
上場企業であればデリバティブ取引は時価で評価され貸借対照表に計上されますが、非上場の場合反映されていないこともあります。
割引手形とは、取引先から受け取った約束手形を支払期日前に銀行で現金化することです。
裏書手形は、取引先から受け取った約束手形を第三者に譲渡することで現金化します。
こうした手形を譲渡すると、支払人が期日までに支払わなかった場合、手形の金額を支払わなくてはなりません。
割引手形と裏書手形も将来発生する恐れのある偶発債務と言えます。
第三者から訴えられている場合、敗訴すれば損害賠償責任を負う可能性があります。
損害賠償額は損失として扱われることになりますから、訴訟がある場合も偶発債務として取り扱うことになります。
なお、敗訴がほぼ確実で賠償額が見積もれる場合は計上するのが通常です。
しかし、なかには計上を行わない会社もあるため注意しなければなりません。買い手は入念なデューデリジェンスが必要です。
偶発債務と間違われやすいものとして、簿外債務と引当金があります。
違いを確認しておきましょう。
簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のことを言います。実は偶発債務も簿外債務の一部です。
違いとしては、偶発債務が未確定の債務であるのに対して簿外債務はすでに確定している債務という点があげられます。
簿外債務には、例えば以下のものがあります。
【簿外債務の例】
次に偶発債務と引当金の違いを説明します。
引当金とは、将来発生する可能性がある特定の損失に準備するためにあらかじめ当期の費用として準備しておく見積り金額のことです。
以下の要件を満たすものは、引当金に該当します。
これらの要件を満たした場合、引当金として貸借対照表に計上されます。
偶発債務は「発生の可能性が高いこと」「金額を合理的に見積もれること」には該当しない点が大きな違いです。
M&Aでは偶発債務の有無が非常に重要です。
偶発債務が債務として確定すれば、買い手側は債務を支払わなければなりません。あらかじめ正確に把握しておく必要があります。
その際、偶発債務の発見に役立つのが「デューデリジェンス」です。
デューデリジェンスとは、売り手側の経営状況や財務状況をくわしく調査する作業を言います。デューデリジェンスにはさまざまな種類があります。
例えば以下のものがあげられます。
デューデリジェンスでは、偶発債務についても書類やインタビューを通して調査します。
万が一偶発債務が発見された場合、対応が必要となりますが価格交渉で買収金額を下げるのも1つでしょう。
また、M&Aの手法を一部の事業のみ切り取って買い取る事業譲渡に変更するのも方法です。
デューデリジェンスを成功させるには、以下のポイントを押さえておくことをおすすめします。
関係者へのインタビューを漏れなく実施しましょう。
インタビューは、株主や経営陣だけでなく法務部など偶発債務に関わる人全員に実施する必要があります。
なお、インタビュー実施前には取締役会や役員会議の資料を閲覧しておくことをおすすめします。
しっかりと確認したうえで、インタビューと齟齬がないか判断してください。
インタビューで偶発債務の可能性があると判断したら、議事録など関連する資料を入念に調査しましょう。
資料を調査して、内容を押さえていきます。
偶発債務には、専門家の知識が必要な場合もあります。
訴訟リスクには弁護士などの法律家の知見が必要ですし、従業員の労働時間なども労務の専門家でないとわからないことがあるでしょう。
専門家に依頼すれば、豊富なノウハウを基にした確実なデューデリジェンスが実施できます。
偶発債務が確定して債務となったら、買い手は支払い義務を負うことになります。
M&Aにおいて偶発債務の存在は非常に重要です。偶発債務には専門家の知見が必要な場面が多くあります。
そもそもM&A自体専門知識が必要ですし、M&A仲介会社など依頼すると安心でしょう。
しかし、依頼する際はぜひ注意してください。実は専門家と言っても得意分野はさまざまで、自社のケースに合っていない場合もあります。
当サイトを運営する「税理士法人Bricks&UK」では、税理士はもちろん司法書士や行政書士、社会保険労務士など各分野の専門家がチームを組み連携して、あなたのM&Aをサポートする体制があります。
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この記事の監修M&Aシニアアドバイザー 齊藤 宏介
税理士法人Bricks&UKにて、税務・会計の豊富な経験から事業者の良きパートナーとして活躍。
M&A Stationではアドバイザーの中心的存在として、様々な業種の会社へのM&Aアドバイザリー業務を取り仕切る。
M&Aを成功させるための要点のひとつに「デューデリジェンス」が挙げられます。
買収対象企業の分析・評価のために実行されるもので、ここでリスクを見落としてしまうと後々取り返しがつかない危険性があります。
ただ、調査項目は多岐に渡り高度な専門知識が必要とされ、いざ必要な場面でどこに依頼すればいいか分からない方も少なくないでしょう。
多くのM&A仲介会社の業務範囲は、文字どおり「仲介」まで。デューデリジェンスに関しては、改めて依頼先を探さなければいけません。
M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」では、グループとして税理士、社会保険労務士、司法書士、M&Aアドバイザーが在籍しており、本来であれば個別に依頼が必要なデューデリジェンスもワンストップ対応が可能です。
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