M&Aにおける経営者保証~会社譲渡後はどうなる?~
2023.4.28
2023.4.28
会社を創業したり、事業を拡大したりするときに金融機関から融資を受ける経営者は多いでしょう。その際、融資を受けるために多くの経営者が行っているのが「経営者保証」です。
経営者が会社の連帯保証人になるのが経営者保証ですが、近年ではこの経営者保証の存在が、思い切った事業展開や円滑な事業承継を阻んでいるとも言われています。
本記事では、経営者保証の概要や経営者保証が与える影響、「経営者保証に関するガイドライン」についてくわしく解説していきます。
さらにM&Aにおける経営者保証の対策についても説明しますので、参考にしてください。
Contents
そもそも経営者保証とはどのようなものなのでしょうか。まずは経営者保証の概要について確認しておきましょう。
経営者保証とは、中小企業や経営者が金融機関から融資を受けるときに、経営者個人が会社の連帯保証人になることを指します。
仮に会社が倒産した場合には、経営者個人が会社に代わって借りたお金を返済しなければなりません。
会社が破産し回収できなくなるリスクが減るため、金融機関にとっては融資しやすくなり、経営者にとっても個人保証を付けることで、融資審査のハードルが下がることで、資金調達を円滑にするメリットがあると言えます。
経営者保証には、金融機関からの資金調達を円滑にするメリットがある一方で、与える影響やリスクも多くあります。
経営者保証が与える影響として第一に、「経営者の挑戦を妨げる」ことがあげられるでしょう。
経営者保証では、万が一のときは経営者個人が会社に代わって借りたお金を返済する必要があることは前述したとおりです。
会社の業績が悪くなったり、倒産の危機に陥ったりした場合には、経営者は自己資産も返済に充てなくてはなりません。
場合によっては、自己資産をすべて失ってしまう可能性も考えられるのです。
会社だけでなく自己資産も失う可能性を考えると、どうしても怖くなり、経営者は積極的にさまざまな挑戦ができなくなってしまいます。
当然、思い切った事業展開にも躊躇してしまいますし、早期の事業再生にも消極的になってしまうでしょう。
また「事業承継が円滑に進まなくなる」のも、経営者保証が与える影響の1つです。
事業を承継する場合、後継者は債務も一緒に引き継ぐのが一般的です。その際に、後継者候補が経営者保証の債務を引き継ぐのをためらい、承継自体を拒否するケースは少なくありません。
さらには、後継者の自己資産不足を理由に、金融機関が経営者保証の引き継ぎを拒む場合もあります。
以上のように、経営者保証には事業承継を難しくさせるリスクがあります。
ここまで、経営者保証の概要や与える影響について説明してきました。
近年、国内の中小企業でM&Aが活発になっています。
経営者保証のある会社がM&Aを行う場合、どのような対策が考えられるのでしょうか。具体的な方法を紹介します。
まず一番ポピュラーなのが、売却前にあらかじめ経営者保証や抵当権を外しておく方法です。
経営者保証が外れておけば、M&Aもスムーズでしょう。経営者保証を外すには、債務の返済を済ませることです。
また、会社の資産では返済額に足りない場合も考えられます。その場合、自己資産を会社に貸付けて返済することも可能です。
抵当に入れた土地や建物を売却し債務を返済することでも、経営者保証を外すことができます。
M&Aの際に、買い手側に経営者保証を引き継いでもらうという方法もあります。
経営者保証を買い手側に引き継いでもらう場合、金融機関が買い手側の信用調査を行うのが一般的です。
信用調査で問題ないと判断されれば、金融機関は経営者保証の変更にも応じてくれます。
この方法を取るなら、当たり前ですが買い手側への事情説明や承諾を得ることは必須です。
経営者保証では、売り手側の経営者がすでに不動産を担保に入れている場合も少なくありませんが、その場合でも、買い手側が同程度の資産価値のある担保を差し出せることができれば担保を変更することが可能です。
M&Aにおける経営者保証の対策として、M&Aの際に取引と同時に買い手側が借りた金額を全額返済するやり方もあります。
買い手側に経営者保証を引き継いでもらうケースだと、信用調査があったり、手続きを行ったりとなにかと複雑です。
しかし、M&Aと同時に買い手側に全額返済してもらえれば、信用調査も手続きもなく、簡単にM&Aを進めることができます。
経営者保証には、いくつかリスクがあるのは前述したとおりです。
そのリスクへの対応策として、2014年2月に、中小企業庁は「経営者保証に関するガイドライン」を施行しました。
これは経営者保証によるリスクを取り除き、思い切った事業展開や早期の事業再生を促進するのが目的です。
ガイドラインを利用することで、もし会社が倒産した場合でも、経営者は一定の資産を確保して債務を整理することが可能です。
例えば、従来認められている自己破産における自由財産(自己破産をしても処分する必要のない財産で、99万円や年齢に応じた100万円~360万円の額)は残すことが可能です。
また、一定の期間(90日~330日)の生計費は残しておくことができますし、華美でない自宅不動産も残せますので、自宅に住み続けられることになっています。
その他にも「経営者保証に関するガイドライン」では、金融機関に対して以下のように決められています。
さらに2019年12月、事業承継に焦点をあてた「経営者保証に関するガイドライン特則」も施行されました。この特則の内容についても、併せて確認しておきましょう。
まず特則では、金融機関に対して事業承継時に前経営者・後継者からの二重徴求を原則禁止しています。
すでに二重徴求を行っている場合も、適切な見直しが求められています。
ただし、やむを得ない場合には例外として二重徴求が許容されていますので、注意しなければなりません。
また、当たり前に後継者に経営者保証の引継ぎを行うのではなく、事業承継に与える影響も考慮したうえで適切に判断することが金融機関には求められています。
仮に後継者に経営者保証を引き継ぐ場合でも、保証の上限額を決めるなど柔軟に対応する必要があるとしています。
加えて「経営者保証に関するガイドライン特則」では、事業承継時、保証契約の適切な見直しの検討が求められています。
特則では金融機関の対応が示されているだけでなく、経営者についての対応も明記されています。
なお、経営者保証を提供せずに事業承継を行う場合には、経営者には以下の対応が求められます。
M&Aを検討している経営者様の置かれている立場はさまざまです。一口に経営者保証といっても、取り扱いも異なるでしょう。
債務のある売り手側は、個別案件的に各債務者と折り合いをつけることがM&Aを円滑に進めるうえで欠かせません。
当サイトを運営する「税理士法人Bricks&UK」は、税理士、司法書士、社会保険労務士などが在籍しており、幅広く経営者の皆さまをサポートできる体制で、それぞれのケースに応じて親身にアドバイスを行います。
経営者保証を利用していてM&Aを検討されている場合は、ぜひ一度お問い合わせください。
この記事の監修M&Aアドバイザー 永井 拓海
税理士法人Bricks&UKにて、会社設立や創業融資などスタートアップの支援を数多く担当。
M&A Stationでは総合的なM&Aのサポートを担当。M&A戦略の策定から資金調達までクライアントのニーズに広く対応する。
昨今、中小企業にとって経営者の高齢化と後継者不在が深刻な問題となっています。
そんな中、中小企業庁が2017年7月に打ち出した、事業承継支援を集中的に実施する「事業承継5ヶ年計画」を皮切りに、中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする「事業承継補助金」の運用、経営・幹部人材の派遣、M&Aマッチング支援など、円滑な事業承継に向けたサポートが実施され、国を挙げて後継者問題の解消を後押しする機運が高まってきました。
引退を検討している経営者の方はもちろん、まだ引退を考えていない方も事前に事業承継の知識を蓄えておけば、より円滑に事業承継を進めることができるでしょう。
当サイトではダウンロード資料として『【M&Aによる事業承継】M&Aの活用で後継者問題を解消』を無料配布中です。
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