法務デューデリジェンス(法務DD)とは?流れや注意点など解説
2023.3.29
2023.3.29
M&Aのプロセスの中で、「デューデリジェンス(Due Diligence、略称で「DD」とも言われる)」は、重要な役割を持つ不可欠のプロセスです。
デューデリジェンスは、M&Aの買い手側が、買収対象会社の詳細を調査するために行われ、法務・財務・税務・労務・IT・事業(ビジネス)などの分野ごとに、士業などの専門家を起用して実施されるものです。
本記事では、数あるデューデリジェンスの中でも法務デューデリジェンスに注目し、その目的や概要、注意点などを解説します
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前述の通り、デューデリジェンスとはM&Aを実行するにあたり、その買収対象となる企業の持つ価値や抱えているリスクを調査すること。その調査目的によって財務・法務・ビジネス・人事・IT・税務などの分野に分かれてます。
その中でも「法務デューデリジェンス」は、法律の観点からM&A対象会社に行う調査を指します。
俗にリーガルデューデリジェンスとも呼ばれ、M&A対象会社の事業活動や会社の運営が適法に行われているかチェックし、仮に違法性が認められる場合はその程度も見極めます。
もし買収後に訴訟などが起こった場合、その解決には多大な時間とコストを要します。
そういったリスクを回避するために、事前に契約や特許・訴訟などの状況を調査し把握しておく必要があるのです。
したがって、法務デューデリジェンスで調査する対象は、以下のように多岐に渡ります。
法務デューデリジェンスでは、以上のような事項を対象に、M&A後にリスクとなることが含まれていないか調査します。
法務デューデリジェンスの目的は、「対象会社の法的リスクの把握」と「リスクの対応策の考察」です。
何らかの法的リスクがあっても、それが対応な範囲であればM&A交渉は進められますし、対応策がなく大きな経営ダメージを受けるリスクであればM&Aの断念もあり得ます。
いずれにしても、M&A実行の検討のためには詳細な事前調査はかかせません。
想定される法的リスクの具体例は以下のとおりです。
ここでは、法務デューデリジェンスでチェックされるリスクを3種類に大別し、それぞれの代表的な事項を掲示します。
1.M&Aの実行の障害となる問題点
2.企業評価に影響を与える問題点
3.買収後の事業計画に影響を与える問題点
M&Aの実行に障害をもたらす可能性のある法的リスクには、以下のようなものがあります。
株主に関するリスク | 株主は適正な手続きを経た正当な株主であるか 非公開会社における譲渡制限は守られているか 瑕疵がある株主がいないか M&Aに反対する少数株主はいないか など |
契約に関するリスク | チェンジオブコントロール条項(M&Aを理由に契約解除できる) 付きの取引契約になっていないか 取引先は対象会社の経営者が代わっても契約継続の意思があるか など |
許認可に関するリスク | 事業に必要な許認可を適正に取得しているか 許認可が承継できない可能性はないか 許認可が停止または取り消される可能性はないか 過去に所轄官庁から行政指導や勧告を受けたことはないか など |
企業評価に影響を与える法的リスクは、以下のようなものです。
資産に関するリスク | 事業用不動産の使用権限は適正な所有権であるか 担保差し入れの有無 知的財産権における適切な手続き 債権の期限 など |
負債に関するリスク | 偶発債務などの簿外債務の有無 借入金・買掛金・未払い金の状況 など |
訴訟・紛争リスク | 係争中の紛争の有無 係争中の訴訟の内容と成り行き 顧客・取引先・労使間・第三者などさまざまな立場の相手から M&A後に訴訟を起こされる可能性 従業員の不正 ハラスメント問題 など |
M&A後の事業計画に支障が出るリスクは、人材の流出問題です。対象会社を買収しても、人材が流出してしまっては事業が維持できません。
人材獲得を目的の1つとしてM&Aを実施する場合もあります。
したがって、法務デューデリジェンスでは、労務面に関して以下のような観点の調査が必要です。
法務デューデリジェンスは基本合意の後、他のデューデリジェンスとともに実施されます。
基本合意は双方が大筋で条件に合意しただけで、この段階ではまだM&Aが正式に成約したわけではありません。
デューデリジェンス完了後、その結果を踏まえて最終交渉が行われる流れになります。
デューデリジェンスに要する期間は、一般に1〜2カ月程度となります。
ただ、対象会社が小規模事業者では1〜2週間、大規模企業では3カ月以上というケースもあります。
法務デューデリジェンスを実施する際は、法律の専門家に依頼するのが一般的です。
法律の専門家としては、まず最もたるものとして「弁護士」が挙げられます。
ただし、どんな弁護士でも可能というわけではありません。
法律の世界は幅広く、弁護士は得意とする分野がそれぞれ異なるものであり、特にM&Aに精通した弁護士に依頼しなければなりません。
M&Aの知識や経験が乏しい弁護士に依頼してしまうと、思った通りの効果が得られない可能性も考えられます。
また、司法書士も法律の専門家です。
本来的な業務としては登記や供託などの法律事務になるため、実際に法務デューデリジェンスを請け負うケースは少なく、取り扱える範囲も狭くなりますが、企業法務やM&Aを専門分野とする司法書士も、法務デューデリジェンスに対応できると言えます。
法務デューデリジェンスを実施する場合、一般に以下のような流れで行われます。
STEP.1 資料開示請求
STEP.2 資料の精査(デスクトップDD)
STEP.3 マネジメントインタビュー
STEP.4 現地調査
STEP.5 最終段階
法務デューデリジェンスで必要となる資料をリスト化し、M&A対象会社に提供を求めます。
主な資料としては、以下のようなものです。
デスクトップDDとは、入手した資料の調査・分析のことです。
調査を進める過程で新たな資料が必要となる場合もあるので、その都度、追加で請求します。
デスクトップDDでは、調査と並行して、経営陣に行うインタビューの方針・内容も決めなければなりません。
M&A対象会社の経営陣や事業のキーパーソンなどに、直接会ってインタビュー(質疑応答)を行います。
インタビューをスムーズに進めるため、事前に質問内容を書面化して該当者に渡しておくのが一般的です。
インタビューの内容は、デスクトップDDで生じた疑問点や、資料ではわからない事業や問題の実態などについて質問します。
マネジメントインタビューと並行して行われるのが現地調査です。
法務デューデリジェンスで必要な資料の中には、印刷すると膨大な量になってしまうものや、社外への持ち出しが禁止されているものもあります。
その場合、M&A対象会社の社屋を訪れることになりますが、M&Aが進行していることを秘匿するために、一般の従業員には悟られないような場所で資料を閲覧するのが現地調査です。
全ての資料・マネジメントインタビューの調査・分析が完了したら、担当者は報告書の作成に取りかかります。
法務デューデリジェンスの規模によって異なりますが、少なくとも数十ページ以上の内容となり、作成期間も1週間以上要するでしょう。
報告書では、特に発覚した法的リスクについて、M&A後、どのような影響を及ぼすか詳細に言及する必要があります。
ここでは、法務デューデリジェンスでチェックすべきポイント・注意点を紹介します。
会社組織の調査では、設立時の書類、定款、社内規程類、商業登記簿謄本、取締役会議事録、株主総会議事録などの関係書類の内容確認が不可欠です。
株主に関しては、株式発行の書類、株主名簿、株主間契約などの調査が必要になります。
M&A対象会社に関係会社があるならば、グループ間取引、関係会社の株主間契約などの確認・調査が欠かせません。
対象会社が過去にM&Aを実施している場合、潜在的な賠償責任が隠されていないかの調査・検証が必要です。
対象会社が不動産を所有していれば、不動産登記簿謄本などで不動産の権利関係の実態を確認・調査します。
事業用の不動産を賃貸借している場合には、賃貸借契約書の内容を調査し、M&A後も継続使用できるか確認しなければなりません。
対象会社が何らかの知的財産を有している場合、特許登録原簿、商標登録原簿など該当する資料による内容確認が必須です。
その他にも所有する財産によって収入を得ているケースでは、たとえばライセンス契約書などで状況を把握します。
融資や債券発行など対象会社の資金調達状況も、法務デューデリジェンスの調査範囲です。
各種証書による借入内容や担保・保証内容の確認、デフォルト(債務不履行)などの偶発債務の可能性や潜在債務の有無などを調査します。
法務デューデリジェンスでは、対象会社が締結している全ての契約書を調査しなければなりません。
特に、重要である事業における取引契約では、COC(Change Of Control)条項や競業禁止、独占的権利付与条項などが含まれているかどうかの調査が必須です。
対象会社に係争中の訴訟がある場合、訴訟内容と勝敗の見込みの調査は不可欠です。過去に紛争・訴訟があった場合、その内容も確認します。
また、現在、対象会社に寄せられているクレームの数や内容を把握し、潜在的な紛争がないか確認することも調査内容です。
M&A後も許認可が継続して使用できることは最重要の調査事項です。
コンプライアンスについては、会社法、税法、下請法、個人情報保護法、労働基準法など事業活動と会社の運営に関係する全ての法令と照らし合わせ、対象会社に違法行為がないか調査します。
法務デューデリジェンスと同時並行で実施されるその他のデューデリジェンスは、さまざま点で法務デューデリジェンスと相互に関連性があるため、情報の共有または共同での調査が不可欠です。
関連性がある調査内容例としては、以下のようなものがあります。
デューデリジェンス後、M&Aの買い手側は、デューデリジェンスの結果を踏まえて最終交渉に臨むための意思決定をします。
意思決定の内容は、大別して以下の3通りとなるでしょう。
法務デューデリジェンスで有効な成果を得るには専門的な知識と経験が欠かせないため、弁護士や司法書士など法律の専門家に依頼するのが一般的です。
しかし、各専門家も得意分野はさまざまであり、他の分野のデューデリジェンスとの連携も求められます。
そのようなデューデリジェンスの依頼先として最適な専門家の1つが、われわれM&A Stationです。当サイトを運営する「税理士法人Bricks&UK」グループには、税理士、司法書士、社会保険労務士などさまざまな分野の専門家が数多く在籍。
法務デューデリジェンスをはじめとしたあらゆる分野のデューデリジェンスに対し、常に連携してサポートできる体制です。
M&Aを行う際には、総合的なサポートを提供できるBricks&UKへぜひご依頼ください。
随時、無料相談をお受けしております。
この記事の監修M&Aシニアアドバイザー 齊藤 宏介
税理士法人Bricks&UKにて、税務・会計の豊富な経験から事業者の良きパートナーとして活躍。
M&A Stationではアドバイザーの中心的存在として、様々な業種の会社へのM&Aアドバイザリー業務を取り仕切る。
M&Aを成功させるための要点のひとつに「デューデリジェンス」が挙げられます。
買収対象企業の分析・評価のために実行されるもので、ここでリスクを見落としてしまうと後々取り返しがつかない危険性があります。
ただ、調査項目は多岐に渡り高度な専門知識が必要とされ、いざ必要な場面でどこに依頼すればいいか分からない方も少なくないでしょう。
多くのM&A仲介会社の業務範囲は、文字どおり「仲介」まで。デューデリジェンスに関しては、改めて依頼先を探さなければいけません。
M&A Stationを運営する「税理士法人Bricks&UK」では、グループとして税理士、社会保険労務士、司法書士、M&Aアドバイザーが在籍しており、本来であれば個別に依頼が必要なデューデリジェンスもワンストップ対応が可能です。
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