【個人事業主の事業承継】手続きの流れ、注意するポイント
2022.2.04
2022.2.04
個人事業主の事業承継は、法人の場合よりも手続きが煩雑な一面があり注意が必要です。
事業承継時に発生する税金や法人の事業承継との違い、個人事業主が事業承継を成功させるポイントなど関連する知識もあらかじめもっていれば、余裕をもって事業承継に挑むことができるでしょう。
本記事では、個人事業主の正しい事業承継の進め方について解説します。
Contents
個人事業主が後継者に事業承継を行う際、取り得る手段は以下の3種類のうちいずれかとなります。
M&Aの事業譲渡とは、個人事業主が行っている事業および事業用資産を売却することです。
買い手が後継者となって事業承継が実現し、個人事業主は譲渡対価を獲得します。
一般的に、事業譲渡の対象者は第三者の個人や法人です。
個人事業主の場合、法人(株式会社)のように株式や法人格がないため、M&Aでの売却手段の選択肢は事業譲渡のみになります。
事業譲渡が売却であったのに対し、贈与は、個人事業主が行っている事業および事業用資産を、後継者に無償で譲って事業承継します。
この場合の対象者(後継者)は、一般的に親族や従業員などです。
事業譲渡のように対価の獲得はできませんが、個人事業主が生前に自分の子供に事業承継したい場合や、事業を買収する資金がない従業員に事業承継する場合などに用いられます。
個人事業主の死亡時、遺族が事業および事業用資産を相続すれば事業承継できます。
ただし、遺言書がなく相続人が複数存在する場合は、遺産分割協議となるのは必至です。
仮に事業用資産が複数の相続人の間で分散してしまったら、事業が継続できず事業承継できません。
そのような事態を避けるためには、遺言で後継者に事業用資産全てが渡るよう定めておくに限ります。
ここでは、個人事業主が事業承継を行う際の各プロセスの概要を説明します。
STEP.1 後継者の選定
STEP.2 事業譲渡契約書または遺言書の作成
STEP.3 廃業手続き(現事業主)
STEP.4 開業手続き(後継者)
STEP.5 名義変更など引き継ぎ処理
個人事業主が行う事業は飲食店や商店などの自営業が多いですから、個人事業主の子供が後継者となるケースが代表的です。
しかし昨今は、少子化により個人事業主に子供がいなかったり、価値観の多様化により親の後を継がない子供が増えたりなど、社会環境が変わってきました。
したがって個人事業主としては、子供が後を継いでくれるのか、従業員を後継者に抜擢するのか、第三者に売却するのかなど、状況を見極め慎重に後継者選びを行う必要があります。
このプロセスでは、事業承継を行う方法によって内容が異なります。
M&Aによる事業譲渡、または贈与で事業承継する場合は、個人事業主と後継者との間で事業譲渡契約書の締結です。
贈与の場合は、無償で譲渡する内容の事業譲渡契約書になります。
相続で事業承継する場合は、個人事業主による遺言書の作成です。相続人である後継者が、事業用資産全てを相続する旨の文言を明記します。
個人事業主の事業承継は、法人のように後継者が法人格を引き継ぐような方法が取れません。
したがって、個人事業主が事業承継を実施しようというタイミングで、現事業主は廃業手続きを行う必要があります。
これは、個人事業主の場合、法人と違って、事業で生じる税金の納付者が事業主個人であることが理由です。
個人事業主が行う廃業手続き先は、管轄の税務署、在住する都道府県、年金事務所、労働基準監督署(またはハローワーク)と複数あります。
現事業主の廃業届に合わせて、後継者は開業手続きを行います。
開業手続き先は、現事業主の廃業時と同様に管轄の税務署、在住する都道府県、年金事務所、労働基準監督署(またはハローワーク)です。
許認可が必要な事業である場合には、後継者が新たに申請し許認可を得なければなりませんので、その手続きも加わります。
なお、現事業主の屋号を引き継ぎたい場合には、開業届の中に該当屋号を記載することで引き継ぎ可能です。
以下に挙げるものは、全て現事業主個人の名義になっています。事業承継にあたっては、それらを後継者の名義に書き換える必要があります。
事業用資産・取引先との契約・事務所、機材などの賃貸借契約
名義変更のためには、必然的に取引先などへあいさつに出向くことになります。また、後継者が事業開始するにあたっては、後継者名義の銀行口座開設も必要です。
ここでは、事業承継時に注意すべき経費と債務に関して説明します。
贈与での事業承継の場合、後継者が引き継ぐ事業用資産の中に不動産のような固定資産が含まれていると、高額の贈与税が課されるかもしれません。
これを避ける手段として、該当する事業用資産の名義書き換えを行わず、現事業主が後継者に賃貸借する方法があります。
賃貸借契約があれば事業継続に支障はなく、賃料を経費として計上できるので節税も可能です。
さらに、使用貸借(無料での貸借)契約であれば、節税にはなりませんが経費(賃料)発生そのものを抑えられます。
資産とはプラスのものだけではありません。
買掛金や未払い費用、借入金などの債務も資産に含まれます。
詳しくは後述しますが、個人事業主の事業承継では、全ての事業用資産が引き継がれなければなりません。
したがって、上述したような債務がある場合、後継者はそれも引き継ぐことになります。
後継者の立場としては、事業承継にあたり、事前に債務事情もよく確認しておく必要があるでしょう。
個人事業主の事業承継では、いずれの方法を取ったとしても何らかの税金が発生します。
発生する可能性のある税金は以下の4種です。
贈与による事業承継を行った場合、後継者に贈与税が課されます。
ただし、承継した資産額から承継した負債額を差し引いた金額の110万円超の部分が課税対象です(1月1日から12月31日までの1年間での換算)。
贈与者が60歳以上で受贈者(後継者)が20歳以上(2022年4月1日からは18歳以上)の子供や孫の場合は、相続時精算課税制度により贈与税負担を軽減できます。
ただし、後日、贈与者死去の際にあらためて相続税が課されるため、税負担を先送りしたに過ぎません。
M&A・事業譲渡による事業承継を行った場合、譲渡者(個人事業主)は受け取った対価に対し譲渡所得税が課されます。
また、どの方法の事業承継の場合でも、後継者に課されるのが事業所得税です。
これは、引き継いだ事業で得た収入から経費を差し引いた金額に対して計算される税金になります。
相続で事業承継した場合、相続人(後継者)に相続税が課されます。
基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を上回る金額部分が課税対象です。
これは、2028(令和10)年12月31日までの期間限定ですが、個人版事業承継税制を活用すると贈与税・相続税の納税猶予および免除が受けられます。
ただし、2024(令和6)年3月31日までに「個人事業承継計画」を都道府県知事に提出し確認を受けなければなりません。
また「個人事業承継計画」には、認定経営革新等支援機関(税理士など)の所見が記載されていることが必須です。
いずれにしても、個人版事業承継税制は手続き面が複雑であるため、税理士などに相談して進めることをおすすめします。
M&A・事業譲渡で事業承継を行い、譲渡資産の中に消費税課税資産が含まれていれば、買い手(後継者)は消費税を納付しなければなりません。消費税課税資産は以下のとおりです。
事業を承継した後継者は、事業開始後、年間売上高が1,000万円を超えた場合、消費税を納付しなければなりません。
ただし、贈与またはM&A・事業譲渡で事業承継した場合は新規開業扱いとなり、開業後2年以内は消費税納付を免除されます。
ここでは、個人事業主の事業承継と法人による事業承継との2つの違いを説明します。
法人(株式会社)の場合、株式を売買し経営権を移転させる(株式譲渡)だけで事業承継ができます。
しかし、個人事業主の事業承継では、その方法が取れません。
したがって、個人事業主の個人名義になっている事業用資産全てを、後継者に引き継ぐ=後継者名義に書き換えないと、後継者が事業承継し事業を継続していけないのです。
後継者に資産を移転するにあたっては、単に名義の書き換えだけでなく、税金のための資産価値評価などの手続きも発生します。
総じて、法人の事業承継よりも個人事業主の事業承継の方が、手間がかかるのは否定できません。
法人(中小企業)が株式譲渡を実施する場合の手続きは、株主(オーナー経営者)による株式譲渡の承認請求後、臨時株主総会での決議などです。
一方、個人事業主の事業承継では、現事業主が廃業手続きを行い、それを受けて後継者が開業手続きを実施し、さらに名義変更などの引き継ぎ手続きが発生します。
このように個人事業主の事業承継では、当事者双方が細かな手続きを煩雑に行う必要があり、ミスがないように実施するのに骨が折れるでしょう。
個人事業主の事業承継を成功させるポイントとして以下の3点が挙げられます。
一説では、事業の後継者教育には5〜10年かかるとも言われています。
法人に比べて規模が小さい個人事業とはいえ、これについては同程度の期間が想定されます。
その時間を逆算すると、できるだけ早い時期から後継者の選定を始めておくのが最良です。
あわてて後継者を決めたりすると、人選ミスをしてしまうかもしれません。
しかしながら、法人と違って個人事業の場合、後継者候補は限られています。
場合によっては、周囲に後継者候補がいないということもあるでしょう。
その際には、M&A・事業譲渡による事業承継を念頭に置き、どのタイミングで実施するかなどの戦略を練ることをおすすめします。
具体的にM&A・事業譲渡実施を決めた場合は、M&A仲介会社などの専門家に相談するとよいでしょう。
個人事業主の事業承継では、まず、全ての事業用資産の移転手続きが必要です。
それに加えて、現事業主の廃業手続きや後継者の開業手続きには以下のような書類を提出します。
贈与や相続による事業承継であれば、ここに贈与税や相続税の手続きも加わります。
また、個人版事業承継税制を活用するのであれば、さらに手続きが増えるのは必至です。
各手続きの内容を理解し滞りなく進めるには、計画的な対応が欠かせません。
個人事業主の事業承継では、後継者側にかかる税負担は軽視できないものがあります。
特に贈与・相続による事業承継では、贈与税・相続税が思わぬ高額となるかもしれません。
ただし、贈与税や相続税は事前に対策を取ることで、節税できることもあります。
個人版事業承継税制を活用すれば、納付猶予を得て、さらに条件を満たせば免除を受けることも可能です。
事業承継後、後継者が円滑に事業を継続していくためにも、後継者を定め事業承継の方法を決めた際には、税金対策の準備も並行して進めるようにしましょう。
ここまで述べてきたように、個人事業主の事業承継を成功させるには、準備と対策、各種手続きへの着実な対応が欠かせません。
M&A・事業譲渡による事業承継では、M&Aの専門的な知識や経験が必要になり、贈与・相続による事業承継では、節税対策という課題があります。
これら専門的な知見が必要になることを考慮すると、どの方法の事業承継であっても、専門家のサポートを受けて実施するのが最良の手段と言えるでしょう。
特に、税金の専門家である税理士のサポートを受けるのがおすすめです。
税理士であれば、贈与税・相続税・所得税・消費税のどれについても熟知しています。
煩雑な手続きの負担も軽減されるでしょう。
また、個人版事業承継税制を活用するのであれば、経営革新等支援機関に認定されている税理士などの支援が必須です。
小規模な個人事業主の事業承継であっても、その手続き内容は多岐にわたります。
円滑に手続きを進め、問題なく事業承継を実現するには、専門家のサポートを受けるのが得策と言えます。
税理士法人Bricks&UKには、公認会計士、税理士、社会保険労務士、司法書士などが数多く在籍し、グループ全体で個人事業主の事業承継をお手伝いする体制となっているのです。
国の認定を受けた支援機関(認定経営革新等支援機関)であるBricks&UKなら税金に課する処理や節税対策のお手伝いに加えて、個人版事業承継税制の活用にもお力添えできます。
個人事業主の事業承継をご検討されている場合には、いつでもお気軽にお問い合わせください。M&A Stationでは、随時、無料相談をお受けしています。
この記事の監修M&Aアドバイザー 西井 康輔
税理士法人Bricks&UKにて、会社設立や創業融資などスタートアップの支援を数多く担当。
M&A Stationでは総合的なM&Aのサポートに従事。
業種を問わず幅広くM&A戦略の策定、事業承継についてアドバイスを行っている。
昨今、中小企業にとって経営者の高齢化と後継者不在が深刻な問題となっています。
そんな中、中小企業庁が2017年7月に打ち出した、事業承継支援を集中的に実施する「事業承継5ヶ年計画」を皮切りに、中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする「事業承継補助金」の運用、経営・幹部人材の派遣、M&Aマッチング支援など、円滑な事業承継に向けたサポートが実施され、国を挙げて後継者問題の解消を後押しする機運が高まってきました。
引退を検討している経営者の方はもちろん、まだ引退を考えていない方も事前に事業承継の知識を蓄えておけば、より円滑に事業承継を進めることができるでしょう。
当サイトではダウンロード資料として『【M&Aによる事業承継】M&Aの活用で後継者問題を解消』を無料配布中です。
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