M&Aにおける役員退職金と節税について
2021.8.04
2021.8.04
売却起業側ではM&Aを機会として、代表者を含めた役員の交代がしばしば行われます。
その際、退職する役員に対して支給可能なのが役員退職金(役員退職慰労金)です。
役員退職金は、適切な支給額であれば節税効果が得られます。
本記事で役員退職金の内容をつかみ、節税につながる運用を検討しましょう。
Contents
退職金は、役員だけでなく従業員にも支給されるものです。
役員退職金と従業員退職金では、手続き面で別の運用が必須ですが、各個人にかかる所得税の内容については、役員退職金と従業員退職金に隔たりはなくルールは共通しています。
役員退職金も従業員退職金も税法上では退職所得という位置づけになり、一般の所得とは切り離された分離課税です。
そして、退職所得には、以下のような控除の決まりがあります。
【退職所得控除額の計算方法】
【退職所得の課税所得算出方法】
退職所得への税率は一律ではなく、総合課税のような累進税率が定められています。
また、最終的な課税額計算の際にも基礎控除が行われるので、一般所得に比べ手元に残る金額が多いのが特徴です。
なお、退職所得には社会保険料の適用はありません。
従業員への退職金は、社内で定めた就業規則内の退職金規程にのっとり支給します。
一方、役員退職金を支給する場合は、定款に役員退職金規定を定めておくか、それが無い場合には株主総会決議が必要です。
また、一般的に株主総会で決議するのは役員退職金支給の承認までで、具体的な支給額や支給時期などは取締役会に一任されます。
したがって、最終的な役員退職金の支給決定には、取締役会の承認も必要です。
役員退職金の支給で会社が節税効果を得るためには、支給した役員退職金の損金算入が認められなければなりません。
税務署から損金算入が認められる役員退職金の支給条件について、支給時の手続きの流れを追いながら確認しましょう。
なお、より実例に近い説明となるように、ここでは以下の前提で話を進めます。
上記の前提での役員退職金支給に関する手続きの流れは以下のとおりです。
STEP.1 役員退職金規定の取り決め
STEP.2 株主総会での新代表取締役選出と前代表への役員退職金支給承認の決議
STEP.3 取締役会での役員退職金支給の具体内容決議
STEP.4 各種公的機関への届け出手続き
STEP.5 関係機関への手配
STEP.6 役員退職金支給
役員退職金での節税効果を狙う場合、最も留意すべきことは税務署や国税局に支給額が高額過ぎると判断されると、損金算入が否認されるという点です。
したがって現在は、税務署から適正と認められるであろう役員退職金の計算式(算出根拠)が、以下のように確立されています。
上記のとおり、功績倍率の設定次第で役員退職金額は上下します。
現状、適正と考えられている功績倍率は、1981(昭和56)年の東京高裁判例に沿った以下の内容です。
ただし、これは法律で定められているわけでなくあくまでも目安です。
役員報酬額や在任期間によっては高額にもなり得ます。
その場合、税務署がどう判断するか、客観的に捉えて金額を決めましょう。
株主総会を招集し、まずは新代表取締役選出の決議を取ります。
M&A後の売却側企業であれば、基本的に買収側が全株式を取得しているでしょうから、内容に沿った議事録作成がメインです。
新代表取締役選出と合わせて、退職する前代表取締役への役員退職金支給を、役員退職金規定にのっとり支給することの承認決議も取ります。
また、最終的な役員退職金の具体支給額や支給日程などの細かい点は、取締役会に一任する決議とするのが一般的です。
株主総会の決議を受け、取締役会を開催し役員退職金の支給内容詳細を討議し決議します。
最終的に功績倍率を何倍とするのか、その討議の経緯も含め議事録をきちんと残すことが肝要です。
代表取締役が代わると、法務局、税務署、年金事務所など各種公的機関への変更届け・手続きを行わなければなりません。
これらの手続きは、代表が交代し前任者が退職したことを示すわけですから、役員退職金支給とその損金算入の根拠としても必要な手続きです。
金融機関の口座の名義は前代表取締役となっていますから、この変更手続きも怠れません。
また、取引先などとの各種契約書も前代表取締役の名前で締結していますから、それらの変更手続きも必要です。
取締役会で決議した内容どおりの金額および支給日に前代表取締役に対して、源泉徴収し役員退職金を支給します。
中小企業が事業承継するケースでは、前代表取締役が取締役や監査役として会社に残る場合があります。
このとき、職務分掌が代表取締役から取締役や監査役に変わったことを根拠に、代表取締役としては退任したと解釈し、役員退職金の支給が可能です。
ただし、この職務分掌変更に伴う役員退職金を損金算入するには、法令により基準が定められています。
それが「法人税法基本通達9-2-32」で、その概要は以下のとおりです。
上記の中で問題となるのは、「経営上の主要な地位にいない」の解釈です。
税務署から見て「経営上の主要な地位にいる」と判断されれば、支給した役員退職金の損金算入が認められず、節税効果は得られません。
この税務署の判断を不服とし、撤回を求めて会社側が裁判を起こすこともあります。
しかし、多くの判例では、前代表取締役が実質的に以前同様、実権を握っている事実を挙げられ、税務署の主張が認められてきました。
役職名が変わり、報酬額を以前の3分の1に下げていたケースでも会社側が敗訴した判例もあります。
職務分掌変更時における役員退職金の損金算入については、このことをよくよく鑑みて実施しましょう。
なお、法人税法基本通達9-2-32では、未払い計上した役員退職金は、原則として損金算入が認められないとされています。合わせて注意してください。
役員退職金(退職所得)の税法上の仕組みを活用し、M&Aにおいて売り手・買い手ともにメリットを享受できる方法があります。
ただし、M&Aのスキーム(手法)のうち、株式譲渡を行うことが前提です。
具体的には、以下のような流れで株式譲渡を実施します。
1.交渉のうえで株式譲渡の対価を確定する。
2.株式譲渡の対価の一部は、M&A実施後、売り手側経営者に役員退職金として支給する約定をする。
3.買い手は株式取得の際、上記の役員退職金相当額を差し引いた金額を株式譲渡の対価として支払う。
4.M&A(株式譲渡)完了後、売り手企業の役員交代を実施し、退職する前経営者(売り手側の元株主)に約定していた役員退職金を支給する。
通常の株式譲渡では、株式所得に対し一律20.315%の税率で課税を受けます(2021年7月現在の税率)。
一方、役員退職金(退職所得)の場合、1章で述べたとおり、手厚く控除される制度となっており、課税額を低く抑えられるのが特徴です。
したがって、株式譲渡の対価の一部をM&A後、役員退職金として受け取るということは、売り手側株主(経営者)にとって節税になります。
まず、株式譲渡対価額が低くなるので、その分の資金の準備がいりません。
また、M&Aでは多くの場合、成約金額と仲介会社に支払う手数料は比例するため、仲介手数料の節約につながります。
さらに、M&A成立後に支給する役員退職金が適正な内容であれば、本記事で示したとおり損金算入できるため、節税効果が得られるのです。
ただし、役員退職金の金額次第では、支給に伴う資金繰りに注意しましょう。
株式譲渡を用いたM&Aでは、役員退職金により売り手も買い手も節税効果が得られます。
大いに活用したいところですが、双方が認識を共有しながら交渉をまとめるには、専門家の存在が欠かせません。
特に、適正な役員退職金額や具体的な節税額の算出などには、専門家のサポートが必須です。
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