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【M&Aのスキーム】スキーム別の事例集

M&Aで想定される様々なスキームと、買い手・売り手の立場で想定されるメリット・デメリットを見てきましたが、やはりテクニカルな説明だけではロジックで理解できてもイメージが湧きにくいものです。

売り手・買い手の経営陣にとって当初の目論見は達成できたのか、それとも失敗に終わったのか、他社との資本提携は望ましい結果をもたらしたのか、不幸な結末に終わったのか、ハッピーリタイアメントは経営者にとって素晴らしい引退方法であったのか、残された従業員はどうだったのか、など

M&Aは生きた会社同士の営みであり実際に活用されるからこそのルールである以上、それがどのような局面で利用され、そしてどのような結果に帰結したのかも大事な視点になります。

本記事では、M&Aの様々な場面で活用されたスキームを切り口に実際にどのような取り組み事例があったのかをご紹介し、より体温が感じられるM&Aの実例について解説をしていきます。

M&Aスキームの選び方

一般的に、M&Aにおいて重要な条件となる譲渡・譲受価格、実施時期と言った条件は、どのように決定されるのか明確な決まりはなくケースバイケース。
M&Aスキームはそれぞれメリット・デメリットがあり、最適な手法を選び出すのは容易ではありません。
ポイントとしては主に下記の3点に着目するとよいでしょう。

  • M&Aの目的
  • 手続きの簡便さは重要か
  • 売買金額の大きさは重要か

M&Aを実行するにあたってもっとも重要なのはやはりその目的。
目的によって最適なM&Aスキームは異なります。

同様に、手続きの簡便さを重視する度合いや、売買金額の大きさを重視する場合などでも、用いるべきM&Aスキームは変わるものです。

最終的にどのM&Aスキームを用いるかは、専門家と相談して決めるのが一般的ですが、その際により適切なスキームを提案してもらえるよう対象会社の状況や希望する条件、要望などをしっかり伝えることが重要です。

株式譲渡の取組と実際の事例

株式譲渡によるM&Aはもっともわかりやすく、またスモールM&Aを含めたあらゆる局面でもっとも多く活用されてきた事例です。
ほとんどの場合、経営者同士で合意をすればディールの完了まで障害になるものがなく、譲渡されるものは株式、譲渡対価は金銭という単純さもあって、スモールM&Aなどで事業承継を行う際には多くがこの方式と言えるでしょう。

これはスモールM&Aで事業承継に利用された実際の事例です。
売り手になる会社は創業80年以上の歴史ある、大型産業装置の修理専業会社。年間売上は3億円ほどで近年の経常利益は年間300~500万円で推移。
売上から見ると薄利ですが実態は赤字に近い状態で、事業承継に備え利益を出し、買い手が現れるタイミングを窺っていると言える状態です。

従業員は8名で経営者はすでに現場から離れており、技術承継に特段の問題が発生することは想定されません。
買い手候補は地元では少し知られた電子機器設計・開発の会社ですが、設計と開発がメインであったために自社製品の開発を悲願としていて、産業機械の構造を知り尽くしているプロフェッショナル集団を喉から手が出るほど欲しがっています。

この両者はメインバンクが同じであったため、事業の買収と事業承継をそれぞれ銀行に意思表示していたことから対象会社の経営者に意向確認が行われ、売買のマッチングがされることになりました。

売り手企業の経営者は70歳を越えている一方、買い手企業の経営者はまだ30代で親子ほどの年齢差はありましたが、初回の昼食会からそれぞれの人物像や経営に対する価値観で共感を得て、M&Aの話は順調に進みました。

この事例では、売り手の希望は従業員の雇用と引退に必要な手取り額の確保であり、買い手の希望は従業員(=技術)の雇用契約維持と予算内の買収金額です。
価格交渉が少し難航したものの、M&Aを成立させたい意思は双方ともに強かったため、最後はそれぞれが譲歩し合意、締結に至りました。

なおこの際、実際に問題となったのは以下のような点です。

  • 工場の建物が極めて古く、吹付けアスベストが使用されている可能性があったものの未調査で現状渡しとすること
  • 設立が戦前と歴史がある上に複数の株主が存在し、また現物株を発行しており、さらに株式の一部が散逸し元の出資者は既に亡くなっていることから株式引き渡し後のリスクが払拭しきれないこと
  • 売上を限られた数社に依存しており、継続性と安定性に重大な疑問があること

このような問題がありましたが、買い手側経営者の主な目的は技術者の知識と技術であり、かつ即時稼働可能な工場であったため、リスクを飲んだ上でディールの成立を見ます。

なおこの際、対象企業を100%子会社の形で買収しましたが、買収金額は工場用地の相場額に数千万円ほどを上乗せした金額でまとまりました。
その為、売り手にとっては土地の売却代金以上は極めて厳しかった手取り額の上乗せに成功。
買い手にとっては工場用地に加え、償却が終わっているものの十分稼働する建物と産業機械設備を手に入れ、かつ即戦力の技術者の雇用を確保。

両社にとって得るものが多く非常に満足度の高い、相乗効果の見込まれるM&Aとなりました。

第三者割当増資(新株引受)の取組と実際の事例

第三者割当増資は、大規模なものからスモールM&Aの数百万円レベルの持ち合いまで含め非常に多くの取り組みがなされており、広義のM&Aの中ではもっとも活用されている手法と言えるでしょう。
売り手にとってはM&Aという意識よりも資金調達の手段として検討されることもあり、手続きも簡単なので会社経営者として持っておくべきカードの一つと言えます。

これは業界大手との関係を深めるため、ベンチャー企業で取り組まれた実際の事例です。

売り手側は加工食品工場を営む会社で、ある画期的な製造工程を開発したことから将来のIPO(株式の新規上場)が見込まれる伸び盛りの会社です。
内部留保と借入金で本社工場と2つの工場の建設・稼働までは賄いましたが、旺盛な需要の高まりに今の商圏とは別の営業エリアに新しい工場を建設する計画を立てるに至りました。

しかし投資が先行しており回収が追いついていないことから、手持ちキャッシュだけでは新工場を建設する事ができず、信用保証協会の融資枠も目いっぱいまで使い切っていたため銀行借入も期待できません。

そこで検討したのが、第三者割当増資による資金調達でした。
将来のIPOが描けるのであれば株主となる会社に対しイグジット(出口)戦略を提案することは容易であり、IPOの確度が高ければ投資する側にもメリットのある話です。
複数のVC(ベンチャーキャピタル)と事業会社に事業計画を打診した結果、事業会社を中心に増資後の数字で持株比率10%相当の新株発行により、2億円の資金を調達することができました。

この際の事業会社は一部上場の大手食品メーカーで、大株主になってもらいながら仕入れ条件を最優遇条件にしてもらう条件も取り付けます。
また、その事業会社の中で休業している工場を格安の家賃で借りる約束も取り付け、居抜きの食品工場を改装するだけで稼働させることができたので、資金調達と併せ負担の少ない新工場の竣工、大手食品メーカーとの太いパイプを確保できる、非常にメリットの多い第三者割当増資になりました。

買い手の大手食品メーカーから見ると、元々M&Aで関連会社を増やし自社の販路を拡大する戦略を採っていた上、魅力的な新技術の会社を新たに販路にすることができ、また無駄に費用が掛かっていた休業工場から家賃収入が発生するのでとても良い話です。
将来のIPO(Initial Public Offering:新規公開株)を果たすことができれば、投資分は何倍にもなって返ってくるのでデメリットはほとんど考えられない、良い投資になりました。
この案件は一連の進め方からも、第三者割当増資で行うべき教科書のような事例と言えるでしょう。

しかしその後、あくまでも結果論ですが売り手の加工食品工場を経営する会社では需要が急激に下落し3工場の生産体制は生産能力過剰になり、借入金返済と償却負担が賄えず業績が急速に悪化。最終的に会社全体を株式譲渡方式で売却することになります。

この際、第三者割当増資の際に買い手側だった食品メーカーでは経営を巡る問題が発生し、関連会社にリソースを割く余裕がなかったことから、別の会社が第三者割当当時の1/10の価額で全株式の取得をすることになり、大きな損失を出すことになりました。

資本政策や資金調達はあくまでも事業を補完する手段であり、本業の見通しを誤るとやれることには限りがある側面も示す、大変残念な事例であるとも言えます。

事業譲渡の取組と実際の事例

事業譲渡方式によるM&Aでは、切り離そうとする元の会社の債権者に対し事業譲渡の事実を告知し個別同意を得ることが必要になるため、法律的に求められる手順はやや煩雑になります。
また譲渡対象の事業は消費税の課税対象となることもあり、一般に余り用いられる手法ではありませんが、M&A stationでは中小企業の案件が多い事から扱う事があります。

そのような前提条件がある中で、今回はM&Aで事業を積極的に展開している会社が、新しい地域に進出した際に事業再編の手法として用いた事業譲渡の実際の事例です。

M&Aを計画しているのはある持株会社で、傘下にある人材派遣会社の規模を拡大し新しい地域で事業を開始するため未展開地域にある会社を買収したのですが、事業譲渡を計画したのはその直後のこと。

この時、買収した会社は事業の横展開に失敗し経営危機の状態にあり、5年で約7億円 もの巨額の繰越欠損金も積み上げていました。
その為、外形的には完全に救済を目的とした買収で、買収の際にオーナー経営者の手取りとして入る売却金は皆無で、買収による買い手の負担は事実上、数億円ほどの借入金の肩代わりのみです。

そして、買い手側の企業はすぐに経営危機の元になった周辺事業から全て撤退し、元の人材派遣の事業に会社のリソースを集約させます。
さらに配下にある人材派遣会社をすぐに合併させること無く、グループにある別会社がもつ保険代理店事業を、その時に買収した会社に事業譲渡しました。

持株会社の傘下にある会社から、持株会社の傘下にある会社への事業譲渡ですのでその手続きは極めて容易で特段の障害はありません。
買収した会社の周辺府県を統合する保険代理店業務をこの人材派遣会社に任せることになります。

この際、保険代理店事業をこの会社に集約することには地域的な合理性、余剰人員の活用という意味で非常に意味のある施策であったことは間違いないと思われますが、保険代理店事業は非常に利益率と利益額の良い事業です。
そして直近の業績に巨額の繰越欠損金が存在する会社は、繰越欠損金を一定期間持ち越して納税額が計算される事実を考えると、繰越欠損金を埋めるまで高利益が見込める事業を新規に始めることはとても魅力的なことと言えるでしょう。

この際の買収側企業の本来の意図を知るべくもありませんが、いずれにせよ、何かと手間のかかる事業譲渡方式によるM&Aもグループ内企業で行う場合はデメリットを最小化し、メリットをさらに大きくする方法があると言えます。

会社分割の取組と実際の事例

会社分割は、M&Aに限らず事業の再編やグループ会社を構成する際にも広く使われており、使い勝手の良い手法です。

例えば、居酒屋と学習塾、パン屋さんの3つの事業を営む会社を想定した場合、勤務時間や休日休暇を一つの会社の中で統一することは相当な無理があり、給与体系や評価基準も使い分けるべきで、一定の規模になれば会社を事業ごとに分割し経営する、というような積極的な使い方も想定できるでしょう。

これは、経営危機に陥ったある加工品製造販売を営む会社の実際の事例です。
売り手はある特殊な加工品を製造するメーカーで、非常に先進的なベンチャー事業を営んでいたものの、世の中にまだ認知されていない事業であったため先行投資が重くなり年々財務体質が悪化していました。

一方でこの会社は元々、工業系のプログラマーを多く抱え、この事業分野では自社でプロジェクトを受注するというより、他社のプロジェクトに人員を派遣し人月単価で売上をあげており、薄利でも確実な利益を上げることができていました。
そのような中、加工品製造販売事業の展開が思うように進まない状況が続き運転資金の枯渇が見えてきて、銀行借入もままならない状況に追い込まれることになります。

この状況に至り、この会社が考えられることは2つです。

  • ベンチャー事業を損切りし諦め、本業に戻る
  • 薄利でも確実に利益が上がる本業を売却しベンチャー事業を継続する資金に充てる

この会社が選んだのは後者でした。

意思決定をするとこの会社は直ちに売却手法の検討に入り、ベンチャー事業を元の法人に残し、そこから分割したプログラマー派遣事業を100%子会社に切り出す会社分割を実施します。
すでに経営危機は表面化しており、また取引銀行も財務状況を把握していたのでこのような事業計画に積極的賛成はしないものの反対はせず、推移を見守る姿勢でした。

そして運良く、100%子会社のプログラマー派遣事業会社は取引先がすぐに買い取ってくれることが決まったため、ある程度の資金を得た親会社は有利子負債の一部を圧縮して事業の立て直しを図ることに成功しました。

会社分割を活用し会社の危機を乗り切ろうとした、このM&Aの活用方法としてよく見られる、事業立て直しの実例と言えるでしょう。

なおこの会社では、結局ベンチャー事業の成立の見通しが立たず残された親会社も子会社を買収した会社に買収され、先に売却した子会社と再合併しました。
事業の成算が立たない中でM&Aをいかに上手く活用しても、根本的な問題解決の手段にはなり得ないことを示している事例と言えるかもしれません。

M&A合併の取組と実際の事例

吸収合併の場合

吸収合併方式による企業同士の合併は、規模の大きさを追求し業務の効率化を図る上で多く用いられる手法です。
資本関係の全くない企業同士による合併の場合、銀行や証券会社、保険会社のように規模の大きさが会社の信用になり、合併そのものでメリットが得られる場合に採られる手法と言えるでしょう。

また100%子会社などを設置し別会社として運営していた会社を、本体に吸収したほうが業務の効率化が図れると判断した場合にも、同様に吸収合併するM&Aが行われることがあります。

過去に「吸収合併」を実施した、あるいは模索しているとプレスリリースしている会社の実例は以下のようなものです。

  • 第三銀行と三重銀行 2017年に持株会社方式による経営統合
  • 富士通 SE子会社3社を2016年11月に吸収合併
  • JVCケンウッド JVCケンウッド・ホームエレクトロニクスを吸収合併

その他にも非常に多くの会社のプレスリリースが発表されていますが、吸収合併で圧倒的に多く見られるのはこの時期、100%子会社を親会社に吸収合併する簡易吸収合併になっています。

このうちJVCケンウッドについては、欧州販売子会社での経営不振をきっかけに過去の不正経理が発覚し、2010年に金融庁から課徴金を課されるなどした経緯からグループ内の再編に着手を始め、これまでに事業子会社3社、経理子会社と情報システム子会社を吸収合併し、700名余の社員のリストラを進めてきました。
ここに来てさらに家庭向けオーディオ事業も本体に吸収し、グループ会社方式での経営から本体に事業を集約する施策を吸収合併により推し進めています。
なお、この際の吸収合併は簡易吸収合併で行われ、100%の持株比率である親会社が子会社を吸収するため、それぞれの株主に金銭や対価の交付はありません。
そのため株主総会も開催されないなど、吸収合併を行う上ではかなり簡易な方法で再編を進めることが出来ます。

一方、第三銀行と三重銀行による経営統合は、規模の大きさを追求するための典型的な合併方式と言えます。
両行は三重県を地盤とする地方銀行で、営業基盤の範囲が重複するとみられることから合併により営業の効率化を図ることができ、また預かり資産の飛躍的な拡大で資金運用の効率化を図ることが出来ますので、経営を統合するメリットの大きい、典型的なM&Aの事例と言えるでしょう。
持株会社方式を取っていますが、持株会社方式か吸収合併方式どちらを選ぶかによるメリット・デメリットをどのように判断するのかという意味でも注目すると興味深い案件かもしれません。

新設合併の場合

企業同士の合併や経営統合はM&Aで多く見られる事例ではありますが、新設合併方式を採用する場合、他の方式と比べてメリットが限られデメリットが非常に目立つ方式のため、スモールM&Aのみならず、大企業が採用するM&Aの手法としても余り多くの例を見ることが出来ません。

公益法人や社会福祉法人同士の合併で散見される事はありますが、株式会社同士の合併で採用されることは、政府主導によるものや官公庁の規制による影響がある場合を除いて、極めて稀と言えるでしょう。
このような数少ない事例で、かつ上場企業がいったん上場廃止になり再上場が必要になる手順を踏んでもなお新設合併を選んだケースとして、2003年5月の株式会社三越の事例があげられます。

この際株式会社三越は上場会社であり、連結子会社4社(名古屋三越、千葉三越、鹿児島三越、福岡三越)を有する会社でしたが、子会社4社と合併するにあたり新設合併方式を採用し、関連する三越5社は全て解散をします。
上場企業であった旧三越は2003年8月26日に上場廃止となり、連結子会社4社と新たに新設合併で生まれた新三越は2003年9月1日に東証一部市場を含む当時の大阪・名古屋・福岡・札幌各証券市場に再上場しました。

現在でも、三越伊勢丹の公式Webサイト上では統合前当時のプレスリリースを閲覧することが出来ますが、プレスリリースの性質上、このような状況で新設分割を選択した理由について詳細は明らかにされておりません。

旧商法の時代に選択された事例であり、ステークホルダーのメリット・デメリットについてどのような話し合いが為されたのか、そしてその結果どのような妥協の産物があったのかなどの真相を推し量るのも難しいものがあります。
しかし、定量的に明らかなデメリットが存在してもなおこの方式を選ぶ理由があるという意味で、上場企業の選択として特筆するべき事例と言えるでしょう。

三角合併の場合

三角合併方式は元々、海外企業、とりわけアメリカ企業が日本企業を買収し易くすることを目的に日本に対し解禁を求め導入された経緯のあるM&Aの手法とされています。
海外法人の日本子会社が日本の会社を合併する際、その対価を日本の子会社が金銭で支払うのではなく、親会社である海外法人の株式を株主に対して交付する方法で対価の支払いとするものです。

この方法が実際に日本で解禁されたのは2007年5月ですが、同年10月には早速、アメリカのシティグループが傘下にあった日興コーディアルグループを完全子会社化することを発表し、併せて三角株式交換により対価の支払いを行うことを発表しました。
その後、翌2008年1月に三角株式交換は予定通り実行され、日興コーデを完全子会社化したシティグループは同年5月にこれを吸収合併し、日興シティホールディングス株式会社と商号を変え、日本における金融事業の中核会社を組織することになりました。

本件では、2008年9月にリーマン・ブラザースを破綻に追い込んだ(いわゆるリーマンショック)サブプライムローン問題が2007年頃からアメリカに金融不安をもたらし始めており、なるべく現金を流出させずにM&Aを実施したいシティグループの意向から、三角合併方式でMvAが実施されたと思われます。

このM&Aは三角合併(三角株式交換)解禁後に行われた最初の実施事例になり、アメリカ企業が日本の代表的な金融機関を買収するという象徴的な意味合いからも当時大きな注目を集めた、三角合併(三角株式交換)の代表的事例と言えます。

株式交換の取組と実際の事例

株式交換によるM&Aは、ある会社を買収しようとする際、その株主に対して金銭ではなく株式や社債、新株予約権などを交付して対価とする手法です。
TOB(株式公開買付)と異なり、株主総会の特別決議を通すことができれば既存株主から全ての株式を吸い上げることができるため、買収対象を100%完全子会社にする際に用いられます。

上場企業の買収手法としては一般的であり、特に事業再編などで関連会社を完全子会社化する際に用いられる事が多く、上場企業の場合その対価に用いられるのはほとんどの場合普通株式で行われていると言えるでしょう。
株主総会の特別決議を通す必要があるということは、敵対的買収では特別決議で否認されM&Aが成立しにくいことを意味し、また株式を対価に用いるのは債権者保護手続きなどの追加措置が必要ない事によるものです。

この事例が実際に用いられた例は数多くありますが、かつてパナソニックが兄弟会社と言われた三洋電機を完全子会社化する際にも用いられています。

もともと三洋電機は松下幸之助の義弟・井植歳男が松下電器の専務取締役を務めた後、幸之助の助力により立ち上げた会社という経緯もあり、本社同士も近隣にあるなど、歴史的に良好な関係を築いていました。
やがて2000年代に入り、日本の白物家電が次々とアジア勢に駆逐され始めると三洋電機は経営不振に陥ることになり、様々な手段を講じて会社の存続を図りますが、万策尽きた感がある2009年になってパナソニック(=松下電器)が救済的な色彩の強いTOB(株式公開買付)に乗り出すことになります。

この際のプレスリリースで、パナソニックは完全子会社化を企図してTOBを実施する旨を発表し買取価格は20%余りのプレミアを上乗せすることとしていましたが、集まった株式は80%余りに留まったため、株式交換方式による2段階のM&Aを実施して三洋電機を完全子会社化することを企図し、予定通り完全子会社化を完了しました。
その後、三洋電機は事業部門ごとに吸収あるいは売却され、最後に残った社員はパナソニック関連会社に転籍するなどし、現在は法人格だけが存続する状況となっています。

その他の事例では、2012年10月にソフトバンクがイー・アクセスを完全子会社化する際に株式交換によるM&Aを実施した事例がありますが、この際にソフトバングが提示したイー・アクセスの株式評価額は52,000円だったのに対し、M&A発表直前のイー・アクセスの株価は15,070円であったため、実に3.5倍ものプレミアを上乗せした株式交換比率を提示し世間を驚かせます。

株主総会の特別決議を通すため、2/3以上の株主の賛成を得ることを目的としたサプライズと思われますが、この株式交換によるM&Aは予定通り実施されることになり、イー・アクセスはソフトバンクの完全子会社となって上場廃止となりました。

株式移転の取組と実際の事例

株式移転方式によるM&Aは、企業の組織再編で、あるいは同業を営む会社同士で新しく受け皿となる持株会社を作り、グループ会社化する際に多く用いられる手法です。

この際、経営を統合しようとする会社は新設した会社に持株を全て引き渡し、対価として新設会社の株式を受け取りますが、その結果、統合前のそれぞれの会社は新設会社の100%子会社となり、統合前の株主は新会社の株主になる、という形になります。

組織再編、同業者同士の経営統合のどちらの場合にも多く用いられますが、代表的な事例はやはりM&Aの規模が大きくなる分、企業同士の戦略的な経営統合の事例が印象的であり、特に銀行や大手メーカー同士の経営統合などはメディアでも取り上げられることが多くなります。

このうち銀行では、メガバンク同士の経営統合は一段落したものの、地方銀行で営業基盤が重なる銀行同士では常に経営統合の話が浮かんでは消え、ということを繰り返しており、直近では横浜銀行と東日本銀行が株式移転方式による持株会社方式で経営統合し、コンコルディア・フィナンシャルグループを設立したことなどが話題となりました。

また九州地方でも、熊本県を地盤とする肥後銀行と鹿児島県を基盤とする鹿児島銀行が2015年に株式移転方式により経営統合し九州フィナンシャルグループを設立しますが、隣接するそれぞれの県でトップシェアを持つ地方銀行同士の経営統合は地理的な利点もあり、合理的な経営統合と言えるでしょう。

音響機器大手の日本ビクターとケンウッドが経営統合する際にも、株式移転方式により持株会社を設立し2008年10月にJVCケンウッドHDが設立されますが、この経営統合は直後に発覚したビクターの不正経理処理により当時大きな話題となります。
この際、経営統合直後の2009年にビクターでは、過去に欧州子会社で発生していた経費の一部を未処理にする方法で利益操作を行っていた疑惑が指摘されたことから、株式移転時の交換比率が適正であったのか、そもそも株式移転は適正に行われたのか、という問題に発展しました。

最終的には持株会社であるJVCケンウッドHDで決算修正を行う事態となり、同社は証券取引等監視委員会から8億円もの巨額な課徴金を課されることになります。
このような経緯もあり同社はその後グループ会社の再編とリストラを繰り返し、経営再建の途上にありますが、スモールM&Aで持株会社を作り経営を統合することを考えた時、信頼できるパートナーを選ばないと想定外のことも起きうる可能性の一つとして、参考にするべき事案と言えます。

資本・業務提携の取組と実際の事例

資本・業務提携は、資本の持ち合いあるいは出資をした上で業務の一部について協力関係を結ぶなどし、企業同士が通常の契約関係よりも強いアライアンス関係を結ぶことです。

広義のM&Aとしてはどのような規模、どのような業種でも行われている施策であり、その事例は枚挙に暇がありません。
資本を持ってもらいながら、あるいはお互いに出資し合いながら命運の一部を共有する仲間を得ることは、経営者にとってとても心強いことと言えるでしょう。

このような施策は基本的に会社に悪い結果をもたらすことは余り想定されず、原則として検討されるべき施策ですが、ここでは敢えて極端に悪い結果をもたらした事例について実際の取組みをご紹介します。

売り手(資本の受け入れ側)になるA社は売上高数十億円、従業員700名ほどの規模がある、地方では大きい会社の一つです。
特段の問題がある経営状況ではありませんでしたが、大規模な本社屋を建設した影響で財務内容が悪化し、また生産設備を拡張し人を採用したことが固定化してしまった結果営業CF(キャッシュフロー)の段階で赤字が出るようになり、やがて資金繰りが逼迫します。

この時、この会社に運転資金の貸付を申し出る会社がありました。
未上場会社ではありますが豊富なキャッシュを持ち、M&Aを繰り返すことでグループ会社を広く全国に展開しているB社です。
B社はA社に対し社債の形で資金を融通し、相当程度に有利な低い金利と長期の条件で救済的な資金の貸付を申し出ます。
さらに任意の時期にいつでも返済できる条件も盛り込み、いわば肌感覚的に「ある時払いの催促なし」とも言える破格の融資条件を提示しました。

さらに協力関係を形にする施策として、毎月可能な限りの仕事を発注する旨、口頭で約束し、実際にこの約束を一定期間実行します。
ただしこの破格の条件には一つだけ特殊な事情がありました。
それは、社債は「転換条項付き社債」と呼ばれるものだったことです。

転換条項付き社債とは、一定の期間あるいは特定条件、もしくはその両方を満たした場合、社債の額面額を予め決められた、もしくは時価でその会社(この場合はA社)の普通株式に転換できるというもので、言い換えれば、貸したお金の分、一定条件のもとでその会社の株式に変えることができるというものです。

結論からいうとA社はB社からの一時金ではキャッシュフローの改善には至らず、その後B社は仕事を出すこと無く、追加融資に応じることも無かったのでA社は社債を償還することができず、B社は貸付分を全てA社株に転換することになりました。
この際の転換条件の関係で、転換後のB社の持株比率は99%以上となり、A社はB社のほぼ完全子会社となって傘下に入ることになりました。

B社の意図がどこにあったのか、憶測で申し上げることは不適切であり差し控えますが、結果としてB社はA社に対し友好的な資本・業務提携を持ちかけ、その結果としてA社の規模から考えわずかな貸付金で傘下に収めることになります。

まとめ

あの有名企業の「アレ」が気になる!

M&Aは非常に使い勝手のいい施策です。
しかしながら、時に、十分な知識と経験がないまま、M&Aアドバイザーをつけることなく話を進めると取り返しのつかない結果を招くことも少なくありません。

友好関係は前向きに受け入れながらも、資本・業務提携を形にする際には必ず専門知識のある経験豊富なアドバイザーをつけたほうが良いと言えるでしょう。

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