【M&Aの資金調達】第三者割当増資とは?株式譲渡との違いは?
2021.11.08
2021.11.08
健全な会社経営になくてはならない重要事項である資金調達。
多くの経営者が運転資金や設備資金など、会社を運営していくさまざまな局面で資金調達が必要になる場面に遭遇することでしょう。
その際、増資による資金調達の手法が「第三者割当増資」です。
本記事では、資金調達手法の一つである「第三者割当増資」について、株式譲渡による資金調達との違いや、メリット・デメリットを中心に解説します。
Contents
第三者割当増資とは、新株を対価に投資家から出資を募る増資のうち、特定の第三者に新株を割り当てて実施する増資のことをいいます。
増資の方法には、「公募増資」、「株主割当増資」、「第三者割当増資」の三つがあります。
このうち「公募増資」は不特定の投資家に対して新株申し込みの募集を行う方法、「株主割当増資」はその会社の既存の株主に対して新株申し込みの募集を行う方法、そして「第三者割当増資」は既存株主以外の特定の第三者投資家に対して新株申し込みの募集を行う方法を指します。
第三者割当増資の特徴としては、
が挙げられます。
第三者割当増資が使用される主な目的は次の三つです。
第三者割当増資は増資の一種ですので、第三者割当増資を行うことで資金調達を行うことができます。
「事業拡大のために増資を受けたいが、既存株主からの出資を受けることが難しい」という場合には代替案として公募増資という手段が想定されます。
しかし無暗に公募増資をして、素性のよくわからない人間に会社の議決権を一部でも握られる可能性があるのは得策とは言えません。
そのような場面では、会社が発行する新株を特定の第三者に対して与える第三者割当増資は、非常に便利な資金調達の手法と言えます。
第三者割当増資は新株の引受人である第三者が株主となるため、実は、M&Aの手法として使用されることもあります。
他のM&Aの手法(事業譲渡、会社分割など)と比べると、手続が比較的簡便で税務上の論点も少ない傾向にあるので、第三者割当増資は「手間のかからないM&Aの方法」として有力な手法の一つです。
大口顧客や主要な仕入先に代表される「重要な取引先」に対して第三者割当増資をすることによって、その重要な取引先に自社の株主となってもらうことが可能です。
自社の成長はその重要な取引先にとっても利益となるので、相互取引を増やしてもらったり、新たな取引先を紹介してもらったりするなど、今まで以上に関係性を強化することが期待できます。
しばしば第三者割当増資と比較される資金調達の方法に、自社株の株式譲渡(正確には「自己株式の処分」といいます)があります。
自社株の株式譲渡を特定の第三者に対して行うことによって、第三者割当増資と似た結果(資金調達ができる、第三者が自社の株主になる)を得ることができます。
対して、第三者割当増資と自社株の株式譲渡は「発行済株式数が増えるか否か」という違いがあります。
第三者割当増資の場合は新株の発行を行うため発行会社の発行済株式数は増えますが、自社株の株式譲渡は単なる自己株式の処分であるため発行会社の発行済株式数は変わりません。
もっとも、一株あたり純利益および一株あたり純資産の額は、それぞれ自己株式を除外して計算するため、「希薄化」という観点からは両者に違いはありません。
第三者割当増資を使用する主なメリットは次の四つです。
先にも紹介したとおり、第三者割当増資をすることによって資金調達ができます。
同じ資金調達の方法である公募増資と比べると、
というメリットがあります。
また、株主割当増資と比べると、増資の成否が既存株主側の状況(投資用資金の有無、投資の意向の有無)によらないというメリットがあります。
第三者割当増資によって自社が新規に発行した株式を取得した引受先は、単なる「自社の取引先」から「自社の取引先かつ株主」になります。
引受先にとっては、出資先の会社(=自社)の事業活動が成功すれば多額の配当金を受け取れるため、従来よりも自社の事業活動に協力的になるインセンティブを有することになります。
第三者割当増資は「出資」ですので、会社は返済の義務を負いません。
金融機関や取引先からの借入金の場合は返済義務を負うため、返済用資金を常に確保しておく必要があり、調達した資金の全額を事業規模の拡大などに投資することができません。
それに比べ、第三者割当増資の場合は返済の義務がないので、調達した資金の全額を事業活動へ投資することが可能です。
第三者割当増資は公募増資や株主割当増資、あるいは自社株の株式譲渡(自己株式の処分)と同じく「資本取引」に分類されるため、資金調達を行う際に原則として法人税・所得税などの税金が発生しないというメリットがあります。
ただ、第三者割当増資の場合は資本金の額が増えるため、増資登記の際に登録免許税を支払う必要がある点は留意が必要です(登録免許税の額は増加した資本金の額の0.7%です)。
メリットがある反面、デメリットも存在します。
第三者割当増資を使用する主なデメリットは次の三つです。
第三者割当増資でできるのは「株主の追加」なので、第三者割当増資によって会社を100%買収することはできません。
会社を100%買収するためには、既存の株主からその会社の株式を個別に買い取る必要があります。
既存の株主が売却に合意してくれればよいのですが、そうでない場合はスクイーズアウト(少数株主の排除)を行わなければ100%の買収が完了しません。
第三者割当増資によって出資を受けた現金は会社に帰属します。
そのため、この現金を会社のオーナー(株主)が取得することはできません。
この点、会社のオーナー株主が所有する株式を他者へ譲渡した際はオーナー株主に譲渡代金が入金されることと対比すると、売り手オーナーにとってはデメリットの一つであると言えます。
第三者割当増資は既存株主以外の第三者が新しく株主になるため、既存株主の持ち株比率が下がります。
例えば、発行済株式数が100株である会社の株式を40株保有する株主がいる場合において、第三者割当増資によって新株360株が第三者に取得されたときは、その株主の保有割合が40%から10%に下落します。
こうした事象が生じると、既存株主の権利が著しく侵害される可能性があります。
第三者割当増資は比較的容易に資金調達ができるというメリットがある反面、先ほど紹介したとおり100%の買収ができない、売り手オーナーに入金がないといったデメリットがあるため、経営権の売買手段としてはあまり現実的とは言えません。
実際のところ、経営権の売買を行うためのM&Aで第三者割当増資が行われるケースは稀です。
第三者割当増資は「引受先に自社の株主となってもらうことで引受先との関係が強化できる」というメリットが活かせる場面、つまり事業提携や資本業務提携を行う際に多く使われるM&Aのスキームです。
また、資金調達目的の場面では、一般的に非公開会社である中小企業は公募増資に代わって第三者割当増資を増資の方法として使うことが多くあります。
第三者割当増資を行う際の株価の決め方として、次の三つの方法があります。
証券取引所に上場している会社の市場価格(株価)と比較して自社の株価を評価する方法です。
非上場会社の場合、自社に類似する上場企業を選定するところから作業を開始します。
自社に類似する上場企業を選定するにあたっては、業界、取扱商品やサービス、事業規模、収益性、事業戦略などを考慮します。
自社に類似する上場企業は、通常複数社選定する必要があります。
将来その会社が生み出すと考えられるキャッシュフローに基づいて自社の株価を評価する方法です。
インカムアプローチの考え方をベースにする評価法として、フリーキャッシュフロー法、調整現在価値法、残余利益法、配当還元法、利益還元法があります。
それぞれの評価法には一長一短があるので、自社の将来キャッシュフローの予想や入手可能な情報に応じて適切な評価法を選択することが重要です。
自社の純資産価額(資産から負債を引いた金額)をベースに自社の株価を評価する方法です(簿価で評価する方法と時価で評価する方法があります)。
コストアプローチは、将来の情報に主眼を置いたインカムアプローチの真逆で、現在の情報に主眼を置いて自社の株価を評価します。
コストアプローチはマーケットアプローチやインカムアプローチと比べると手間やコストがかからないため、中小企業が第三者割当増資を行う際の株価の決め方としてよく使用されます。
第三者割当増資は原則として課税関係は生じませんが、「有利発行」が行われた場合は課税関係が生じる可能性もあります。
既存株主の経済的利益を保護するため、有利発行をする会社の取締役は、株主総会において「有利な金額」の募集が必要である理由を株主に説明しなければなりません(会社法199条3項)。
その上で、株主総会の特別決議で募集事項の決定を決議し、その決議が可決されて初めて有利発行を行うことができます。
なお、株主総会の特別決議が可決されるためには、原則として株主の過半数(議決権ベース)が出席し、出席した株主の3分の2以上(同じく議決権ベース)の賛成が必要です。
どの金額が「有利発行価額」に該当するかについて、法令(会社法)は規定していません。
過去の裁判例によると、「有利発行価額」とは「公正な払込金額と比較して特に低い金額」をいい、どういった金額が有利発行価額に該当するかについては、「・・・会社の資産・収益状態、配当状況、発行済株式数・・・などの諸事情を総合して」判定すべきとしています。
通常の第三者割当増資であれば課税関係は生じませんが、株式の対価として支払うべき金額と、その払込期日におけるその会社の株式の評価額との間に概ね10%以上の乖離がある場合は、税法上「有利発行」であるとして、その差額について引受人が個人の場合は所得税、法人の場合は法人税が課税されます。
所得税が課税される場合の所得区分は原則として一時所得です。
以上、資金調達手法の一つである第三者割当増資について、株式譲渡との違いや第三者割当増資のメリット・デメリットを中心に解説しました。
M&Aは専門知識が必要であるため、ノウハウを持つ専門家に相談するのがベストです。
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