M&A交渉での重要項目「企業価値評価(バリュエーション)」とは?
2022.4.21
2022.4.21
M&Aでの取引価額は売り手・買い手の交渉によって決するものですが、交渉は双方が単に希望額を根拠なしに主張するわけではありません。
交渉時の基準額となるのが「企業価値評価(バリュエーション)」で得た価額です。
あらかじめ企業価値を算定しておくことで売却下限金額と買収上限金額が定まり、明確な判断基準を元に交渉を進めることが可能になります。
本記事では、M&Aで欠かせない重要なプロセスである「企業価値評価(バリュエーション)」について解説します。
Contents
まずは企業価値評価の概要について、企業価値と類似する他の用語との違いも含めて説明します。
企業価値評価(バリュエーション=valuation)とは、対象企業の価値(値打ち・価額)を見定めることです。
特に、非上場企業が売り手であるM&Aの場合、株価で時価総額を計算できないため、企業価値評価による算定が欠かせません。
算定では、収益性や資産価値、将来性など企業のさまざまな要素を評価するため、数多くの算定方法が確立されています。
上場企業の場合は「株価×発行済株式数=時価総額」となります。
時価総額は上場企業の価値を計るバロメーターですが、企業価値評価(バリュエーション)でいうところの企業価値とは異なります。
企業価値は企業全体の価値を示すものであり、時価総額との相関性を示すと以下のような式です。
事業価値とは、企業の事業活動によってもたらされる価値を示す言葉です。
しかし、企業価値と事業価値は同義語ではありません。
多くの企業は事業活動に関わらない資産も所持しています。
例えば、遊休資産(事業に関係のない不動産など)、投資用の有価証券などがこれに当たります。
したがって、企業価値と事業価値との相関式は以下のようになります。
株主価値とは、自己資本(株主)に帰属する価値を示し、株式価値とも言い換えられます。つまり、上場企業における時価総額と同義です。
したがって、企業価値との相関性を表すと以下のような式になります。
企業価値評価でいうところの企業価値とは、後述する各種の専門的な算定方法を複合的に用いて計算した結果、算出される金額です。
対して、買収価額とはM&Aでの取引価額であり、売り手・買い手の交渉の結果、合意された金額を示します。
このように性質の違う言葉であるため、企業価値と買収価額は同義ではありません。
M&Aの売り手と買い手では、当然ながら利害が異なります。
相いれない立場の両者が円滑に金額交渉を行うためには、合理的かつ客観的見地から算定された基準値=価額(Value)が欠かせません。
この合理的・客観的見地から算定することを、企業価値評価(バリュエーション)といいます。
会社には株主がいますから、M&Aを実施するのであれば株主への説明責任は免れません。
そのとき、合理性と客観性に基づいた価額をベースに交渉を実施したことは非常に大きな意味を持ちます。
企業価値評価における具体的な算定方法は数多くありますが、それらは以下の3系統に大別されます。
それぞれ詳細については次章から解説していきます。
対象企業が将来、稼ぐ見込みの収益やキャッシュフローから、リスク要素を勘案して企業価値を算定するのがインカムアプローチです。
インカムアプローチの代表的な算定方法としては、以下の2つがあります。
DCF(Discounted Cash Flow)法では、まず、対象企業側が作成した3年程度の中期計画をベースに、フリーキャッシュフローを算定します。
なお、対象企業において将来、見込まれる債務などのリスクを勘案する必要があり、専門的な計算で算定するのが割引率です。
これらフリーキャッシュフローに割引率を掛け合わせることで、企業価値評価が算定されます。
DCF法のメリットは、将来の収益力を見つつリスクも反映されている点です。
M&Aの現場においても、最も多く用いられる算定方法となっています。
ただし、中期計画の内容において、計画作成者の恣意性を否定できない点がデメリットと言いえます。
配当還元法では、対象企業の過去の配当金を基にして将来の配当金を割り出し、それに資本金を加味して企業価値を算定します。
企業価値評価の算定方法の中では、計算方法が簡易であることが特徴です。
ただし、過去に配当を行っていない企業は算定対象になりません。
また、対象企業の配当政策次第で算定結果が異なることになり、客観性の観点で問題があります。
そのため、M&Aの企業価値評価では配当還元法が用いられることはほとんどありません。
マーケットアプローチは、株式市場やM&A市場での、類似する他社の取引価額を基にして企業価値を算定します。
客観性に優れている点が最大の特徴ですが、対象企業と類似する上場企業やM&A取引が見つからなかった場合には、算定そのものができません。
マーケットアプローチは、どの市場の情報を基にするかで算定方法が分かれます。代表的なものは以下の3種類です。
市場株価法は、上場企業限定の企業価値評価方法です。
対象企業の直近1〜6か月間の株式市場での平均株価を計算し、それを評価額とします。
類似会社比較法(マルチプル法)では、M&Aの対象企業と同一業種で類似する企業規模の上場企業を探し、その上場企業の株価に一定の倍率を掛け合わせて企業価値を算定します。
用いられる倍率には、EBITDA倍率、EBIT倍率、PSR倍率、PER、PBRなどがありますが、EBITDA倍率を用いることが多いです。
EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)とは、「税引前利益+支払利息+減価償却費」を意味します。
過去に行われたM&Aの中から、対象企業と同一業種で類似する企業規模・M&A取引規模という条件を満たす事例を探し、その内容を基準に企業価値を算定するのが類似取引比準法です。
ただし、過去のM&A事例の詳細が全て情報公開されているわけではないため、対象企業が非上場の中小企業の場合、条件を満たす事例探し自体が難しく、ほとんど用いられていません。
コストアプローチでは、貸借対照表に書かれている資産と負債を基にして算定を行います。
計算が簡易である点はメリットですが、将来の収益性や無形資産が勘案されていない点がデメリットです。
代表的なコストアプローチは4種類あります。
時価純資産法では、対象企業の資産・負債をそれぞれ時価に換算します。そのうえで資産額から負債額を差し引き、時価純資産額を算定結果とします。
簿価純資産法では、対象企業の「資産額-負債額」の計算を貸借対照表の簿価のまま行い算定結果とします。
ただし、簿価のままでは対象企業の現在の価値が反映されているとは考えられず、M&Aには適しているとは言えないのが実際のところです。
再調達原価法は、時価純資産法と類似する算定方法です。
対象企業の資産・負債について、現時点で取得し直す(=再調達する)としたら、どのような金額になるかという観点で算定を行います。
清算価値法は、特殊な観点で行う算定方法です。
対象企業を清算すると仮定し、以下の計算を行って得られる正味売却価額を基に企業価値を算定します。
清算価値は企業価値の下限を示すものとされています。
ここまで各種の企業価値評価方法を紹介しました。
M&Aの現場においては、それらの中から対象企業に適すると思われる評価方法を選択し算定を行いますが、評価方法はどれか1つのみ用いると決まっているわけではありません。
むしろ、複数の評価方法を採用し、複合的な企業価値評価を行うケースの方が多くなっています。
経営の改善により企業価値評価を上げることは可能です。具体的な方法として代表例をいくつか紹介いたします。
利益増は、企業価値評価向上に直結します。
そこで、売上増による利益増とともに取り組みたいのが、コスト削減による利益増です。
売上を伸ばすのは簡単ではありませんが、コスト削減は社内の見直しで実現できる可能性が大いにあります。
原材料の仕入れ方や、在庫の持ち方、販売管理部門や外注費の無駄の削減など、見直すと費用を縮小できる要素は案外あるものです。
投資先を絞ることも、企業価値評価向上につながります。投資先を絞るとは、投資効率を上げるということです。
投資に見合ったキャッシュフローを得られているかどうかが、投資効率を見極めるポイントになります。
投資先を絞ることで目配りがしやすくなり、結果的に投資効率向上の可能性が高まります。
一般に、従業員の待遇を上げると人件費が高騰し、利益率が落ちると考えがちです。確かに短期的には、それを否定できません。
しかし、給与面だけでなく労働環境や就業規則の見直しなどで、従業員のモチベーションアップが実現すれば必ずそれは業績に反映されます。
中長期的に考えれば、従業員の待遇を見直すことは、企業価値評価向上につながるはずです。
中小企業の場合、目先の資金繰りで精いっぱいというケースも多いでしょう。
近視眼的になっていると、うっかり見落としてしまっていることがあるかもしれません。
そこで、あらためて財務を見直してみるのも、企業価値評価向上につながります。
例えば、売掛金・買掛金・在庫の正確な把握はできているか、毎月、試算表を必ず作成しているかなど、基本に返って財務を見直しましょう。
また、税理士に相談してもっと節税できることはないかチェックするのもおすすめです。
最後に、企業価値評価を行ううえで注意しておきたい2つの点を説明します。
本コラムで説明した企業価値評価の各算定方法の内容は、あくまでも簡略に概要をお伝えしたにすぎません。細かく説明するとあまりにも専門的で難解だからです。
したがって、実際に企業価値評価を行う場面では、M&A仲介会社や公認会計士などの専門家に依頼することが必須となります。
M&Aの取引価額は、売り手と買い手の交渉によって決定します。
業種の特性(参入障壁の高低など)や、売り手の希少価値性(技術力や特許権の所有など)、買い手の買収意欲などによって、それぞれのM&A取引ごとに売買価額は異なるものです。
したがって、企業価値評価で算定した金額が、そのままM&Aの取引価額とはならないケースも多くあります。
企業価値評価はM&Aで必須の重要プロセスです。
複雑で専門的な知識が要求される企業価値評価を安心して実施するには、専門家に任せるのが得策でしょう。
M&A Stationでは、M&Aに関する豊富な知識と経験により、さまざまなノウハウを有するアドバイザーが、企業価値評価を含めたM&Aの各種手続きをサポートします。
国の認定を受けた支援機関(認定経営革新等支援機関)である「税理士法人Bricks&UK」が、企業価値評価や交渉・手続き面だけでなく、資金調達サポートや事業計画書の無料診断などにもお力添えできます。
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