【M&A戦略の目的設定】成功する戦略の策定方法とは
2022.4.07
2022.4.07
現在の日本では、M&Aは大企業だけでなく中小企業や個人事業主でも、経営戦略として取り入れられるようになりました。
それだけ身近になったと言えるM&Aですが、目的どおりの効果を得るように実施するには、まず、M&Aを行う以前の戦略策定が重要です。
本記事では、M&A戦略策定の目的とは何か、戦略策定の流れ・方法、注意点などについて解説します。
Contents
M&A戦略策定にあたっては、まず、M&Aを実施する目的を明確化しなければなりません。
一般的に考えられるM&Aの目的としては、以下の4点が代表的です。
経営の安定化を目的とするM&Aの場合、そこには3つの観点があります。
1つは、自社単独ではこれ以上の「業績改善・向上は難しい」と判断した場合です。
このケースでは、大手企業の傘下に入り親会社から財務面で支援を受けたり、グループ全体のリソースやブランド力を活用したりなどによって、経営の安定化が図れます。
2つ目は、経営の安定化のための「事業の多角化」です。
自社で一から新たな事業を起こすことは高リスクですが、M&Aによる買収ですでに稼働している事業を取得できれば、比較的楽に事業の多角化が実現し、経営の安定化が見込めます。
3つ目は、経営安定化のために行う「事業の選択と集中」です。
多角化した事業が、想定どおりの業績を上げられないこともあり得ます。
そのような場合、不採算事業には見切りをつけてM&Aで売却すれば、残った黒字事業に会社の経営資源を全て集中できるので、経営の安定化につながるのです。
業績の向上を目指す場合のM&Aの目的は、事業拡大です。
事業拡大には、3つの方向性があります。
1つは、事業規模の拡大です。M&Aで自社と同一事業を行う企業を買収すれば、事業規模を一挙に拡大できます。
2つ目は、上の事業規模拡大に付随することですが、シェアの拡大です。
自社と同一事業を行っている競合会社をM&Aで買収すれば、グループとして市場シェアを大きく伸ばせます。
3つ目は、事業エリアの拡大です。
自社とは異なるエリアで事業を行っている会社をM&Aで買収すれば、一気に別エリアへの進出が実現します。
帝国データバンクが発表した「全国企業『後継者不在率』動向調査(2021年)」によると、日本の中小企業の後継者不在率は61.5%となっており、半分以上の企業が後継者が未定の状態であることが分かります。
さらに経営者の年齢が60代では47.4%、70代では37.0%、80歳以上では29.4%となり、後継者問題は多くの経営者にとって大きな課題と言えます。
後継者不在のまま経営者が引退時期を迎えれば事業承継ができず、黒字経営の会社であったとしても廃業するしかありません。
実際、日本政策金融公庫の調査では、60歳以上の経営者のうち50%超が将来的な廃業を予定しており、このうち「後継者」を理由とする廃業が約3割に迫っています。
目下、これを解決する手段としてM&Aによる事業承継が注目されており、政府もこれを後押しする政策方針を打ち出しています。
前述した廃業問題ですが、会社が廃業すると従業員は解雇となり職を失います。
経営者としては、従業員やその家族が路頭に迷うような事態は避けたいところ。そこで、従業員への責任を果たす目的でM&Aを行う経営者もいます。
M&Aで会社を売却すれば、その買い手が後継者(新たな経営者)となって事業承継が実現するからです。
これによって会社は存続し、従業員の雇用は維持され守られます。
さらに、会社を売却した経営者は、廃業にかかる費用が発生しないばかりでなく、売却益も獲得できるのです。
M&A戦略策定の前提として考えたいのは、M&A仲介会社など専門家の活用です。
M&Aはプロセス全てが専門的であり、戦略を練るうえで専門家の存在は欠かせません。M&A戦略策定はM&A検討段階に行うものですから、その段階で専門家に相談することをおすすめします。
一般的に、M&A戦略策定の流れは、以下のように進めます。
STEP.1 自社の分析(SWOT分析)
STEP.2 M&Aの目的を定める
STEP.3 市場調査を行う
STEP.4 アプローチ方法を考える
STEP.5 戦略オプション案をまとめる
ここでは、前章で示したM&A戦略策定の各プロセスについて具体的な方法を説明します。
SWOT分析とは、4つの項目と4つの軸を用いて戦略策定やマーケティングの意思決定、経営資源の最適化などを行うための、有名なフレームワークのひとつです。
Strength:強み | 自社の持つ強み、長所、誇れることは何か? | 技術力、開発力など |
Weakness:弱み | 自社の持つ弱み、短所、苦手なことは何か? | 営業力、ブランド力など |
Opportunity:機会 | 社会や市場の変化などで会社にとってプラス要因は何か? | インターネットの普及、巣ごもり需要 |
Threat:脅威 | 社会や市場の変化などで会社にとってマイナス作用するものは何か? | 大手の新規参入、法律の改正 |
このSWOT分析を行うことで、会社の現在の状態をあらためて確認できます。
SWOT分析で明らかにした会社の現在の状態から考察し、M&Aでの目的を定めます。
より効果的な目的を定めるには、SWOT分析後、さらにクロスSWOT分析を行うとよいでしょう。
クロスSWOT分析とは、以下の組み合わせで状況を再確認し、会社にとって必要な戦略=M&Aの目的を考察します。
これらの分析を踏まえれば、1章で掲示したような実効性のあるM&Aの目的が定まるでしょう。
M&Aの目的が定まったら、その内容に応じた市場調査を行います。
市場調査をすることで、具体的なM&Aの手法や理想的な取引相手の具体像などが浮かび上がるでしょう。
市場調査は、大別して2種類。事業拡大などの目的のM&Aであれば、M&Aの取引相手は同業者が対象になります。
この場合、自社の既存事業の市場調査です。
よく理解していてすでに一定の情報も持っているはずですから、市場調査もスムーズに進むでしょう。
一方、事業の多角化などで異業種への参入を図る目的のM&Aであれば、市場調査の対象は目的の異業種です。
こちらの場合は、既存事業と違って事前情報も知識も乏しいでしょうから、慎重で丁寧な市場調査が求められます。
おそらく自社のみでの調査では良い成果は得られづらいので、M&A仲介会社に依頼するのが得策です。
アプローチとは、M&Aの取引候補に対して、どのようにコンタクトを取るかということです。
具体的には以下の3種類が考えられます。
この中で、直接のアプローチは、ごくまれな方法です。
M&Aの取引候補が、取引先であったり経営者同士が既知の関係だったりする場合は有効ですが、それ以外のケースでは現実的ではありません。
M&A仲介会社と業務依頼契約を締結する予定であれば、アプローチはアドバイザーに任せるのが適切です。
また、それ以外に金融機関や公的機関がM&Aの取引候補情報を持っている場合もあるので、そのようなケースでは各機関にアプローチを依頼することになります。
近年、M&Aマッチングサイトが多数設立されサービスも充実化されてきているので、これを活用するのも1つの手段です。
基本的にM&Aマッチングサイトでは、売り手と買い手を繋ぐ「場を提供する」ところまでで、交渉に際しては当事者間での直接のアプローチとなります。
戦略オプションとは、M&A後の経営戦略を考えることを意味します。
目的を掲げてM&Aを実施するわけですが、M&Aをしただけでその目的が達成できるわけではありません。
したがって、M&A成約後にどのような事業展開を行うかなど、M&A後の具体的な経営戦略を計画しておくことが肝要です。
M&Aの売り手側企業として戦略策定をする場合、目的となる主なポイントは以下の4点です。
中小規模の企業で不採算事業があれば、大きな負担となっているはずです。
明確に黒字化できる算段がついていないのならば、今後の会社の成長を考え、その事業部門を売却するのが正しい選択と言えるでしょう。
不採算事業を売却すれば、残ったコア事業・黒字事業に会社の資源を集中できるため、業績向上が見込めます。これが、事業の選択と集中です。
先述のとおり、日本では後継者不在問題を抱える中小企業が多くあります。
特に経営者が高年齢でも後継者不在の会社であれば時間の猶予がなく、問題を先送りしていられません。
親族や社内で後継者が見つからない場合は、会社存続のため、M&Aによる事業承継が唯一の後継者確保の方法です。
一般にM&Aには半年~1年程度の時間がかかり、その後の経営引継ぎや買い手側の経営統合プロセスなどでさらに時間を要します。
早い時期に目標を立て、M&A戦略の策定に取り掛かりましょう。
イグジット戦略(出口戦略)とは、投資資金の回収戦略を意味します。
従来、日本のベンチャー企業では、イグジット戦略としてIPO(新規上場)を行う傾向が強くありました。
しかし、近年は海外企業と同様に、M&Aをイグジット戦略として選択するスタートアップやベンチャー企業が増えてきています。
中小企業においても、投資資金を回収し利益を得るという目的は、立派なM&Aの戦略です。
中小企業は、どうしても財務面が不安定化しがちです。
会社の製品やサービスは魅力的であっても、いざというときに資金不足では安定した業績を上げられません。
そこで資金不足を解消する目的のM&Aとして、大手企業に会社売却を行って傘下となり、親会社から財務面のバックアップを受けるという戦略が有効です。
M&Aの買い手側企業として戦略策定をする場合、目的となる主なポイントは以下の5点です。
自社が持っていない経営資源をM&Aで獲得するのは、重要な経営戦略になります。
有望な経営資源として考えられる具体例は、以下のとおりです。
M&Aによる経営資源の取得では、自社の持つ経営資源との間でシナジー効果が創出されることもあり、一石二鳥の戦略となります。
M&Aで既存事業を強化するとすれば、同業種の会社を買収することになります。
このとき、事業規模が拡大するだけでなく、市場シェアの拡張も合わせて実現できるはずです。
注意点としては、企業規模が大きい同業種の会社間でM&Aをすると、市場シェアを寡占してしまい、独占禁止法に抵触するおそれがあります。
その場合、M&A自体が認められなくなるので注意が必要です。
社会の変革が速まっている現代では、会社の成長スピードも経営戦略上の重要なファクターです。
仮に会社の成長スピードに不満があるならば、M&Aによってこれを速めるという戦略が取れます。
このケースでは、買収先企業の選び方が重要なポイントです。
参入障壁が低いとされている業種であったとしても、異業種への新規参入にはリスクを伴います。
投資した時間やコストを、必ず回収して利益を上げられるとは限りません。
しかし、M&Aによって、すでに黒字化されている事業を行う会社を買収するのであれば、低リスクで新事業への参入が実現できます。
大幅な利益を出している企業であれば、M&Aで節税効果を得られるのは大きな魅力と言えるでしょう。
ただし、残念ながら節税目的のみでのM&Aは禁止されています。
特例として、以下の条件を全て満たす吸収合併を実施する場合には、買収先企業(吸収合併による消滅会社)の持つ繰越欠損金を引き継げるため、節税効果の獲得が可能です。
最後に、M&A戦略策定時の注意点として以下の4項目を説明します。
あくまでもM&Aは、目的を達成するための手段でしかありません。
目的を達成するための手段が他にあれば、殊更にM&Aに固執する必要はないと言えます。
M&Aの戦略を策定する前に、あらためてM&Aが目的達成のための最適最良の戦略かどうか十分に検討しましょう。
M&Aの実施を決め取引候補と交渉を進めていくうちに、いつの間にかM&Aの実施自体が目的化してしまっているケースがあります。
本来の目的を見失いM&Aの成約にこだわると、条件を妥協し相手企業に求めるハードルを下げてしまいがちです。
そのような状況で成約しても、おそらく成功するM&Aにはならないでしょう。
したがって、いついかなるときでも、常に当初のM&Aでの目的を忘れてはなりません。
M&Aの実施を決めたからには、是が非でもM&Aを成約したくなってしまうのが人情です。
その感覚が強過ぎると、取引候補相手に対し過度の期待感を持ってしまい、成約ありきで情報に接してしまいます。
統合後の事業の将来性など、客観的で合理的な判断が必要な際に、それができなくなっているかもしれません。
M&A成約に焦ることなく、冷静に相手企業を評価できているか自身に問いかけましょう。
M&Aは、メリットだけでなくデメリットが起こる可能性も秘めています。
M&A戦略を策定する際には、良いことばかりに目を向けず、デメリットについても論じましょう。
その上で、M&A成約後に万が一デメリットが起こった場合の対策も、M&A戦略の中に含めて策定しておくことです。
重要な経営戦略・成長戦略であるM&Aですから、戦略策定には入念な検討が欠かせません。
そして、M&Aの目的達成度を高める戦略を策定するには、専門家のサポートを受けるのが得策と言えるでしょう。
M&A Stationでは、M&Aに関する豊富な知識と経験を有するアドバイザーが、戦略策定から交渉・各種手続きをサポートします。
また、国の認定を受けた支援機関(認定経営革新等支援機関)である「税理士法人Bricks&UK」が、戦略策定や交渉・手続き面のサポートだけでなく、資金調達サポートや事業計画書の無料診断などにもお力添えできます。
M&Aをご検討されている場合には、いつでもお気軽にお問い合わせください。
随時、無料相談をお受けしています。
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